1話 夫が帰って来ました
6年と言葉にすれば短いようだけど、私にとってこの6年は苦痛の日々でした。
夫が討伐隊に加わり6年が経った頃、魔王が討伐されやっと夫が帰ってきたのですが、目の前の光景はなんでしょう。
夫の後に部下の方が控えているのはわかります。
上官でもある夫を送って来てくださったのでしょう。
しかし、夫の横で腕を絡ませ、胸をこれみよがしに夫の体に押し付けている女は誰?
金髪に碧眼美人というより、可愛らしいと言うべき20歳程の女性ですが、見覚えはありません。
長年この家に使えている家令が夫を出迎えた者達の心を代弁してくてました。
「旦那様、そちらの女性はどなたでございますか」と
「メアリーは私の妻となる人だ。この家の女主人となるので、皆よく使えるように」
は?使用人が一斉に私の顔を窺いました。
ええ、そうですね。私は何も聞いていませんし、私のこの6年は何だったのでしょうか?
夫が討伐隊に入って前線送りになったのは自業自得なので、別に構わなかったのです。そもそも、夫と婚姻をしたのも私が望んだことでありませんでした。そして、戦地から帰って来た夫が妻という人物を連れて帰ってきたのは、戦地にいながらも楽しんでいたということでしょうか。今まで我慢をしてきた、私への嫌がらせでしょうか。
「旦那様。その方があなたの妻だとおっしゃるのですか」
「お前は誰だ。新しい使用人か」
「私は皇帝陛下の命であなたの妻となったユーフィア・ウォルスですが 、旦那様は皇帝陛下の命を無視してその方を妻に迎えるとおっしゃるのですか」
唖然としたお顔をされたあと、顔色か青くなっていきました。もしかして、6年の間に婚姻をしたことを忘れてしまったのですかね。
「そこの後ろに控えているのは方。確かヒューイッドさんとおっしゃいましたか」
まさか自分に話を振られると思っていなかったのか体をビクッとさせ
「何でしょうか」
「あなた、婚姻の立ち会いでいらっしゃいましたよね。あの立会人と神父しかいない結婚式も」
「はい」
顔がひきつって顔色が悪くなっているわね。
「まあ。そんなに怯えなくてもいいのですよ。事実確認をしたいだけなので」
「はい」
まるでドラゴンでも目の前にいるかのように青い顔をしてガタガタ震えだしてます。
「私は陛下の命で、討伐第9部隊16魔道歩兵隊長のロベルト様と婚姻し、聖堂教会で婚姻の誓約にサインしたと記憶しているのですが、違いましたか?」
「そのとおりです」
「ロベルト様、私の記憶間違いではなかったようですがどうされますか? その女性を屋敷に住まわせて、私を追い出しますか? それなら明日の終戦パーティーへはその女性を連れて行って皇帝陛下に挨拶してくださいませ」
「奥様」
ヒューイッドが血の気がない顔をして
「もう皇帝陛下には任務完了の報告をしたときに戦勝の褒美としてメアリーと婚姻許可をいただきたいとおっしゃいまして」
なんだか首を絞められたニワトリみたいになっているわね。
「それで?」
「皇帝陛下が余が選んだ花は気にいらなかったのかとお言葉をいただきました」
「旦那様。あなたは陛下にどのようにお答えしたのですか?」
「実は」
「ヒューイッドあなたに聞いていません。旦那様、答えてくださいませ」
コボルトの糞でも踏んだような顔で旦那様は答えます。
「花を戴いた記憶はありません」
「そうですか。この婚姻の意味もわかっていなかったということですか。本当に私のこの6年はなんだったのでしょうね。貴方達など助けなければよかった。あのままワイバーンのエサにでもなってればよかったのよ」
「ワイバーンのエサ」
「そうすれば、第二王子と愚兄とともに事件も起こさず。私との結婚もしなくてすみましたのに。前ウォルス侯爵が陛下と私の父に願い出て、私と婚姻することであなたは前戦に出兵する刑で済んでいたのに残念ね」
そう言って夫に背を向けました。
荷造りをして直ぐにここを出ていきましょう。
私、ユーフィア・コルバートは6年前にウォルス侯爵家に嫁いでまいりました。この婚姻は私が望んだものでもなく、父が望んだ婚姻でもありませんでした。この婚姻は皇帝陛下とサウザール公爵家で決められた婚姻でありました。なぜ、全く関係のないサウザール公爵家の名前が出で来たのか、10年前まで時を遡ってみましょう。