55 雪子、再び紹介される
「こちら鷹取さん」
またもや雪子は家元から紹介された
二度目であるためか、かなりおざなりであった
これでいいんですか!?
雪子がそう思うのも当然であった
だが生憎とツッこむ人間はいなかったためそのままスル―されるのであった
もっとも紹介者である家元は前回で義理は果たしたのでこれで十分なのであった
心の奥底には男尊女卑への怨みがあるのは御存じのとおりである
そのため『自分の力だけでやってみろ』と突き放していた
結構イイ性格をしていた
当然のことながら普通ならば問題になるはずである
でも優雅なしぐさと物腰で嫌味を感じさせなかった
今まで生きてきた年月は伊達ではないとだけ言っておこう
・・・こんな立派な大人になりたいものである
一方、鷹取翁はというと紹介されるなり謝罪していた
なにせ前回、雪子を紹介されたものの話をしないからという理由で見事に逃げられていたのだ
さすがに話すら出来ないのは問題であった
当然のことながらもう後がなかった
意気揚々と出かけておきながらなにもできずに帰ってきたのだ
問題にならないはずがないのである
家長であるにもかかわらず家族からしっかり苦情を言われたのであった
そこで困った鷹取翁は再度家元に願った、というわけである
・・・愚か過ぎるが昭和の男なぞこの程度なのである
家元曰く
前回で義理は果たしたので今回は思いっきり高値で恩を売って差し上げましたわ
あの悔しそうな顔といったら見物でしたわ
<ほほほほほっ>
実に楽しそうに笑っていた
かなり溜まっていますわ
雪子はドン引きした
まあこの場合家元が正しいのである
昭和の時代の男というのは本当に男尊女卑なのである
おまけに権力主義者
名家の当主ともなれば神のごとくの存在であると勘ちがいをしていた
おかげで今まで有形無形に迷惑を掛けられてきた家元の怨みは深いのであった
いや他の男性の分の怨みまで含まれているかもしれなかった
・・・まあ実際には今まで出会ったすべての男性から受けた分が加算されているだけである
話を戻そう
昭和の男にとって
人に頭を下げる
という言葉は辞書にないのである
・・・男が謝りたいというのを察して行動しろというのが本音である
まったく『やれやれ』である
もっとも現代ではそんな過去の遺物は通用しないのである
なにせエセ平等主義やエセ民主主義がはびこっているのだ
カビの生えたクソジジイ、いや御老人なぞ最初から居場所がないのである
もっともそれが判っていないところが嗤えるのであった
そんなエベレストよりも高い自尊心を持つ鷹取翁
それを曲げてまで頭を下げてきたわけである
当然のことながら屈辱感は凄いことになっていた
それを想像するだけでと嬉しくて仕方がない
とは家元の言である
・・・こちらも結構歪んでいた
まあ雪子は知らなかったことだが鷹取家には冷泉院巌がいろいろやっていた
なにせ娘と母親は雪子に突撃してきて、父親は勘違いのメール攻撃をしたのだ
家族好きの巌にやらないという選択肢はなかった
なにをやったかというと、鷹取一族の愚かさを面白おかしく話しただけである
意外とチンケな小技であるが実際にやられた時のダメージはハンパなかったりする
おまけに一度広まった噂は消えないという罰ゲーム
コスパが非常に良い鬼畜技である
・・・やられた人間だけがわかるアルアルである
ちょっとだけ巌の行動を記してみると・・・
商談の場で話して大成功
社交の場で話すと盛り上がりすぎるほど盛り上がった
である
なにせ人の失敗話ほど盛り上がる物はない
大昔からの真実である
一方、鷹取家の評判が下がる一方であった
いや下がらないはずがないのである
なにせ噂を聞いた人間が他の人間に喋るのだ
おまけにウケるためにちょっとだけ誇張され他人に話すという鬼畜付き
その無限連鎖のために当然のことながら鷹取家の評判は数日で地に落ちた
溺れる犬に石を投げる
という言葉がある
人間の本質を的確に表した台詞である
つまりはそういうこと
そんなわけで冷泉院以外の関係者も全力で足を引っ張っていた
今まで威張っていた鷹取家が没落しようとしている
いままでの怨みをこの機会に晴らそうする人間は多かった
なにせここでやらないと最後かもしれない
鷹取の家が潰れてしまったらやれない?
やるなら今でしょう!
そういうことである
・・・どれだけ怨みを買っているんですか!、である
まあ人にマウントしてボコボコにすることほど楽しいことはないので当然である
おまけに今までの報復という正義の名の元に行うのだ
絶対に負けることはない
いや他の人間に盗られるのは我慢ができないかもしれないので
やるならば私の手でぜひに!
という訳であった
・・・人間の本性なんてこんなものである
ヤル方もヤラれる方もどっちもどっちであると言えるのかもしれない
まあその辺をしっかりと理解して、噂を広めた巌は実に良い性格をしていた
しかし、鷹取家に怨みがある人間がいると聞けば偶然を装って会いにいったのはやりすぎであった
評判が下げるどころか地面に穴を掘ってまで落としてどうするんだと言いたい
もっともツッこむ人間がいないためスル-されていたのを知る人間はいなかったのである
そんな評判降下一直線の鷹取家を助けるための大トリだ!、とばかりに祖父が登場した
自信満々のくせに自爆したのは御存じの通りである
「ワシにまかしておけ」
と偉そうにいいながら男尊女卑が染みついていたために一度は雪子に逃げられたのであった
本当に一族そろって残念様だと言える
さすがに二度目のチャンスをふいにしたら家族的にも世間的にも立場がなくなる
それが判っているためかさっそく話を切り出してきたわけである
「すまなかった」
それが冒頭のシーンである
自分の年齢の1/3にも満たない小娘に謝罪するというのはさぞ屈辱であったであろうが雪子には関係がなかった
ああ謝罪されていますね
その程度であった
本来ならそんな両者の思惑はお互いに知られること無く消えていくはずであった
だが残念なことに観察者がいた
雪子の茶道の家元である
家元は多少の差はあれ鷹取翁と同年代である
つまりは男尊女卑の格差に長年晒され苦労してきた存在である
また女だらけの世界で生きてきたこともあり歳若い雪子の心情も理解していた
孫弟子どころかその孫までいるのだ
「最近の若い者は」と愚痴が出るほど日頃接しているので雪子の心情を手に取るように判っていた
両者の心の動きを完全に把握している家元は
さてこれからどうなることかしら?
と目の前の出来事を見物気分で眺めていた
またしても男尊女卑の精神でぶち壊すもよし
頭を下げるなどという場に同席するという栄誉を後で活用するもよし
雪子が困ったら助けるもよし
どのように転んでも損はなかった
いや今回の一件を面白おかしく友人達に広める気満々であった
下手な演劇よりも面白くありませんこと
家元は内心で笑っていた




