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灰色景色  作者: 焼ミートスパ
第一章 灰色景色
5/107

5 主人公、運転手を呼び出す

雪子は職員室を出た所で絶望した


担任にイジメを訴えたのだが、全然対処してくれなかったのだ




職員室ではなんとか取り繕えた


教師に出ていくように言われたからだ


歩くという行動だけに専念することで絶望を感じる暇がなかった




ところがソレが終わってしまうとやることがない




身体を動かしている間は気が紛れて考える暇がなかった


ところが職員室を出て立ち止まると身体を動かした分の意識が頭に行ってしまう


そのせいで自分の置かれた状況、つまりいじめられていることに直面した




担任に言っても何もしてくれなかった


教室に戻るとゴミだらけの机




どうしたらよいのかわからず雪子は途方にくれた




廊下に立ちすくんでいたら生徒が通りかかった


始業時間が近いので教室に行くようだ




雪子はそんな生徒達の目から逃げるように人気がない廊下を進んだ


いじめられている自分の姿を見られるのが嫌だからだ


もっとも他人をそんなに気にしないものである


つまり雪子の独り相撲の被害妄想なのだった





雪子は歩いているうちに校舎の隅の廊下の突き当たりに達した


もう行く場所がない


でも人がこないから良いのかも?


何をどうしたらよいのか判らない雪子はそこで立ったままそう考えた




15年生きてきたが学校ではイジメをされた時の対処法は教えて貰えなかった


また家でも聞いたことはない


友達との会話でもなかった




たしかいじめられて自殺する場合は電話しろと電話番号を聞いたような気がする


ラインでも自殺を考えたらここにつないでとの案内が来ていたような気がする


言っていることは正しい


聞いたなら十人が十人とも正しいというだろう




だが実際にいじめられている雪子には知らない人である


だれが知らない人間に自分の人生の大事な選択を相談するというのだろう




それにもしも


「たかがそんなことで」


とか


「気のせいでは?」


とか


「勇気を持って嫌な事は嫌といいましょう」


などと言われようものなら最後の希望の綱が<プチン>と切れて自殺するだろう




絶対にする


確実にする


死んでみせる


雪子はそう確信した




おかげで雪子がとれる選択肢はまったくなくなった




















<ブルブルブル>


校舎の片隅の日が差さない廊下にいたせいで雪子の身体は冷え切っていた


でも学校ではどこにも居場所がない





どうしよう


家に帰る?


いやだめです


両親に心配をかけてしまう


15年間育ててくれた両親だもの


心配はかけたくない


雪子は心の中で葛藤した





それに雪子にもプライドがある


いじめられたなんたことは恥ずかしくて言えない


自分で対処できないなんてことも恥ずかしい


どうしても両親に知られたくない


雪子の頭の中でそれらがグルグル回っていた


そのせいで結論を出すことが出来なかった







考えれば考えるほど寒さが身体に沁み込んできた


身体が冷えきったためとうとう雪子はトイレに行きたくなった


もちろんこちらの悩みは簡単にできるものなのですぐさま行動に移った




<バタン>


<カチャ>


<パカッ>


<カラカラカラ>


<ジャー>


<カチャ>


<バタン>



雪子はすっきりした






雪子がトイレから出てくると身体を動かしたせいか、はたまた生理的欲求を満たしたせいか悩んでいたことがどうでも良くなっていた


もういいや帰っちゃえ


雪子はそう思い帰ることにした




スマホを取り出して運転手の村田さんを呼び出した





雪子の家は国内有数の会社を経営している


冷泉院グループ、それが雪子の父親が代表を務める企業体の名前である


雪子はいわゆるお嬢さまであった





もっとも子供の世界ではそんなのは何の意味もない


子供の世界では押しが強いかどうか


ただそれだけが存在価値である


だから大人しい雪子はいじめられていたわけである




もっとも今回雪子が逃げたことで事態は急展開する


子供の世界では通用する理屈は大人の世界では通用しないからである





ある意味、雪子が運転手を呼び出して帰ることにしたのは奇跡的な偶然であると言ってよい


逃げる事ができなくて自殺していく子供というのは膨大な数に及ぶからである






だが雪子はいじめられっ子が登校してすぐに家に帰るということがどういうことかを知らなかった


日常とは違う行動をするというのは大変なことなのだ




そういう意味でも奇跡が起ったと言ってよいだろう


一歩間違えていたならこの世に居なかったわけであるのだから





後になって雪子は語った


アノ幸運があったから私は自殺をしなかった

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