4 主人公、担任に塩対応される
職員室に行ったものの担任を前にして雪子は何も言えなかった
担任が
「どうした?」
と声を掛けてきても
「あの・・・あ~・・・」
と返事にならない返事しかできなかった
それは当然である
15年間、人の悪口を言わなかったのだ
それを今破ろうとしている
恐れを感じない方がおかしい
もっとも人の悪口を息をするように平気で言う人間がゴロゴロしている現代においては雪子のような存在はレッドデータなみの希少種だ
だれも判らないだろう
実際、担任も判らなかった
最近の子供は教師であっても平気でタメ口をたたくのだ
雪子のような内気な生徒は教師にとっても想定外だ
さっさと話せ
教師がそう思うのも無理は無い
教師の仕事は年々増えているのだ
『先生の仕事は生徒に授業をすること』と思われている
しかし授業が教師の仕事全体に占める割合は20%でしかない
その他は年間計画等の書類作成や会議、保護者からのクレーム処理と部活の顧問活動だ
朝は7時には登校し、夜は9時10時まで残業する日々
それでも足りなくて書類を家に持って帰るのは日常茶飯事である
そんな多忙な中、生徒が相談に来てもろくに対応できない
そしていつしかいつもの仕事を何も考えずに機械的に行うマシーンと化す
物理的に時間がないだけではない
いやそれだけならまだマシだった
昨今では保護者からのクレームの対応というのが1年365日毎日ある
ひたすら保護者の非常識で理不尽な無茶振りに振りまわされるのだ
心が折れるどころか死んでしまっている
そんな中、自分よりも弱い生徒が相談にきたのだ
自然に優先順位が下がってしまい、まともに対応できなかった
いやしなかった、である
多忙が長年続いたため教師としての意欲もプライドも全くなくなったと言ってよいだろう
だから担任は雪子に早く話すように促した
今日は早く帰りたいんだ
仕事を増やいてくれな
とっとと喋れ
そんな雰囲気が伝わってきた
教育者としては失格である
だがら雪子はなかなか要件を言えなかった
雪子が虐められているという相談事を言い出すにはかなりの長い時間がかかった
ようやく雪子からの相談事を聞きだした頃には教師の雪子への好感度は0になっていた
だから
「ああ判った。対処しておく」
担任はそう返事した
そして雪子を帰した
仕事を増やしやがって
担任の誤らざる本音だった
こっちは忙しいんだ
合間があったら対処しよう
担任はそう思った
担任のその判断のせいで大事になったのは数日後のことだった