32 とある弟子達の感謝
「私達は好き好んで日本舞踊をしているわけではないんですよ?」
雪子が日課の冷泉院系のホテルでアフタヌーンティを楽しんでいると顔見知りが声をかけてきた
そして言われた言葉がそれだった
・・・雪子は理解できずに固まった
時間を少し戻す
雪子は顔だけ知っていて話したことがない同年代の娘二人から話しかけれた
ごきげんよう
座っていいかしら
(以下省略)
といった定番の挨拶が終わった後、雪子はお礼を言われた
いきなりで何のことか判らず不思議に思ったのが顔に出たらしい
「そんな言い方じゃ判らないって」
「あ、そうか」
そんな漫才みたいなやりとりの後、感謝の理由を説明された
それが冒頭のものだった
実は月影流は存続事態が危なくなってきていた
まあ誰のせいとは言わないがよっぽど怨まれていたらしい
さすがに習い事をさせている親達も看過できなくなってきた
外聞が悪いからだ
・・・仲の悪い人間にイヤミを言う人というのはどこでもいるということである
そのため見捨てて辞めるということになった
喜んだのが子供達である
ようやく時代錯誤のお稽古事から解放されたのだ
「以前は辞めたいと言ってもお母様が辞めさせてくれなかったんですよ」
「うんうん」
雪子の目の前でテンポの良い会話が繰り広げられていた
所作が美しくなるからと親に日本舞踊を勧められた
子供なので拒否できない
親の愛だと知っているからガマンしてやっていた
そのおかげで立ち振る舞いがよくなったのは自覚している
でも女子高生なので友達と話したいし、遊びにも行きたい
だから今回の一件で辞められたのは渡りに船だった
だから感謝している
とのことだった
「酷いことを言っている人達も居ますが、わたくしが本当のことを話しておきましたわ」
「そーそー、辞められたお礼に私も話しておいた」
と一通り話した後、
「じゃあ私達、あちらの席だから」
そう言って友達が待っている席に移動していった
・・・雪子は負けたと思った
自分は親や教師の言うことを聞いて真面目に生きてきた
その結果がイジメだったりする
ところが見た目が派手でチャラチャラしていると軽蔑していた彼女達の方が世間を上手く渡っていた
嫌な事があってもとりあえずガマンする
そのうち正義感を振りかざした馬鹿が潰してくれるだろう
それまで適当に流していればよい
面倒なことは誰かにやって貰う
同じ月影流で顔は知っているだけの存在であった雪子に感謝の言葉くらいはかけてもよい
そんなところだろう
雪子はどう頑張ればあそこまで成長できるのか判らない
完敗であった
雪子はすごく落ち込んだ
まあ過大評価しているのかもしれない
でもそう思ったすぐ後にはそれは過小評価かもしれないと思いなおす
そして両評価の間を行ったり来たりした
何が本当か判らずスコーンに山ほどクリームを載せてやけ食いしたため胸やけがして苦しんだのはその夜の話




