2 主人公、証拠の写真をとる
雪子は自分の席がゴミまみれになっていたショックで固まった
だが自分の中でナニかが切れる音がした
そうすると心が軽くなっているのに気が付いた
私はなんでもできる!
そう思ったものの、実際には何をすれば良いのか判らなかった
目の前にはゴミだらけの机
周りには自分を虐めているクラスメイト
一体何をしたらよいのか?
雪子は途方に暮れた
いままで良い子をしていた雪子にイジメの対処などできるはずがないから当然である
どうすればよいのか
『誰』に『何』を『どうやって』相談すればよいのか
そんなことは学校でも家庭でも誰も教えてくれなかった
だから判らなくても仕方がないのである
人間はコンピュータと同じである
入力された知識を元に出力するだけ
入力されたこと以外のことはできない
知らないことをできるだとか、行き当たりばったりで行動したら上手く行くなどというのは漫画やTVだけの話である
何をやったら良いのか判らない雪子は必至で考えた
それでも全然判らなかった
だからまず目の前のことから始めることにした
証拠を撮るのは当たりまえ
どこかで誰かが言っていたのを思い出したからだ
それが正解なのかどうかは雪子には判らなかった
だが間違っているにしても正しかったとしてもやるしかなかった
他にやることが思いつかないからだ
だから雪子が顔をあげてスマホを取り出した
そして<カシャカシャ>と証拠の写真を撮り始めた
クラスメイトは驚いた
てっきりいつも通りシクシクと泣きだすと思っていたのだ
そして泣きながら机を掃除する
それか教室を出ていったきり帰ってこない
どちらにしてもゴミだらけの机を掃除するのは雪子
そんな予想が裏切られた
自分よりも下だと思っていた雪子が自分達の考えた通りにならないことに激怒した
「なに撮ってやがるっ!」
一人の男子生徒が大声で叫びだした
どうやら一番の犯人のようだ
おそらく雪子が泣くのを期待していたのだろう
そうなるだろうとニヤニヤしていたら期待と違う行動をしたので怒った
雪子はそう直感した
男子生徒は怒りにまかせて雪子のスマホを叩き落とした
<ガツン!>
スマホが教室の床に叩きつけられた
<シーン>
と静まり返る教室
おいおい、やりすぎだろう
シャレにならないぞ
今後はどうすんだ
そんな空気が広がった
そんな微妙な空気の中、雪子は無表情でスマホを拾った
空気を読まずに行動していた所を専門家が見たら、人として大事なナニかが欠落していることに気が付いただろう
だが所詮は高校生
だれもそれに気が付かなかった
だから雪子の行動を見て男子生徒は更に怒った
何もトラブルは起っていない
いや男子生徒なんてくだらなくて眼中にない
やれやれ所詮はその程度の小物
そんな風に感じた男子生徒は激高した
雪子からスマホを取り上げると高く持ち上げてから床に叩きつけた
<ガシャン!>
凄い音がした
当然のことながらスマホの画面が割れていた
雪子はそれでも泣かなかった
今までならば雪子は泣いていただろう
だが何かが吹っ切れた雪子には何の影響も及ぼさなかった
「・・・」
雪子は無言で画面が壊れたスマホを拾うと教室から出ていった
クラスメイトはいつもと違う様子に戸惑った
「へっ、ざまあみろ!」
男子生徒の捨て台詞だけが教室に響き渡った