18 主人公、学院長の謝罪を拒絶する
「申し訳ありませんでした」
ホテルのラウンジで学院長が頭を下げていた
謝る態度を見て雪子は困った
これでは許さない訳にはいかないという一択だからである
大の大人が子供の雪子に頭を下げている
良い子だった昔の雪子の常識ならば
「もう気にしていませんわ」
と答えたことだろう
たとえ内心で怒っていても怨んでいても自分の心を押し殺して、である
もっとも『良い子』を辞めてしまった今の雪子はそんな返事はしない
思わず答えてしまうところだったがグッと押し殺した
だが、『良い子を辞めて』から数日の雪子にはNoと言えるだけの度胸はなかった
人間、経験値が物を言うというやつである
いくら新入社員の学力が高かろうと、有名大学を出ていようと三流大学出の一年先輩に勝てないのと同じである
雪子は返事が出来なくて困った
早い話、
大人に対して対等の会話をする勇気がない
そして相手を効果的に叩き潰すセリフが判らない
と言う訳である
雪子は自分自身を鼓舞するために手をギュッと握った
もっともそんなことをしたくらいでいい考えがでるわけがない
大人に立ち向かうだけの勇気が出る訳ではない
雪子は困った
一体どうしたら良いのか?
自分自身に問いかけたが答えがでなかった
時間が過ぎるに従い焦りが出てきた
なにせ目の前に待っている大人がいるのだ
焦れば焦るほど良い考えがでてこない
どうするか?
どうしよう?
どうしよう?
なんて言おう?
何を言ったら良いのか判らない
雪子は混乱した
思わず扇子を取り出したのは無意識のことだった
日舞では扇子を日常的に使う
小さい頃からの習慣で、つい今日も持ってきてしまっていた
なにせ日差しがきつくなってきている今日この頃
扇ぐものを持参するのは当然だと言えた
手に持つとつい広げてしまう
いや不謹慎かも、と思い直して閉じる
<パチン>
良い音がした
長年踊りをやっているから当然である
右手の親指が勝手に滑り出して扇子が開く
また閉じる
<パチン>
という音がした
<パチン>
<パチン>
音が鳴り響いた
嫌がらせではなく習慣である
なにせ踊りの師匠からおしかりを受ける時はいつも扇子を慣らされるのである
つまり雪子の中では
怒っている=扇子を鳴らす
となっていた
・・・習慣とは恐ろしいものである
それを隣に居る巌は
『雪子が許さないというサインを出している』
と思った
そのため学院長の謝罪を一刀両断した
それを見ていた雪子は
私は悪くないわよね?
と胸の中で自問自答した




