10 主人公の父、怒る
冷泉院巌が帰宅したのは夜の10時も過ぎてからだった
「おかえりなさい」
そう言って妻と娘と息子に迎えられた巌は家族のありがたみをヒシヒシと感じた
またこんな平和な家庭を構成できる娘に対してイジメをしてきた者と、学校について怒りを感じていた
絶対にゆるさん
巌は改めてそう思った
巌は夕食は後廻しにして、とりあえず雪子から事情を聞いた
イジメというのは大変デリケートなもので、いじめられた本人が訴えないと始まらないからだ
もっとも娘から話を聞きだすだけでも一苦労だったので夕食を先にすべきであったと後悔した
すべてを聞き終えた巌は娘に言った
イジメをする方が悪く、された方は悪くない
まっすくに娘の目を見て言った
<コクン>
娘が肯くのを確認した
「2、3日、学校を休みなさい、いいね」
娘の両肩に手を置いて巌は言った
夕食が終えた後、巌は書斎に行き、パソコンを立上げた
もちろん会社の仕事用の画面から雪子が通う共和学院への寄付金の振り込みを停止するためだ
秘書の提案したとおりにした、
まあ、すべては予定通りなんだがな、と巌は思った
ポッと出の秘書の考えたプランが巌と同じだということに驚けば良いのか、秘書の学校への怨みの酷さに恐れれば良いのか、と思った
まあ、役に立つようなのでこのままでいいか
巌は放置することにした
それよりも寄付金の振込を停止するのが先だと、関係各所に手配した
すべての手配が終了したのでホッとした
どうやら間に合ったようだ
雪子が通う共和学院は私立である
ただの私立ではない
セレブが通う私立だ
学院の建物を維持するだけで莫大な費用がかかる
素人が聞けば「そんなに!?」と驚くだろう
1か月の電気代、水道代だけでも凄い桁数になる
さらに税金や補修費といった予想もしない出費もある
最近ではネット回線維持費だとかAV機器費といった単価の高いものが追加された
おまけに運動部や文化部の部活の費用(遠征費含む)も膨大だ
そんなとんでもない金額の大半を私立校はほとんど寄付金で賄っている
授業料や国からの交付金だけでは全然足りないからである
学院の上層部は年がら年中寄付に奔走しているのが実態だ
そんな毎月ギリギリの綱渡り状態をドタキャンされたらどうなるか
・・・はっきり言って地獄である
ちょうど明日が今月の寄付金受付最終日
丁度よかった
そう思い巌は送金停止の指示を出した
今月も寄付金の納付をギリギリまで延ばしていた
だから今日のうちに送金を停止するように設定しておけば寄付金は学院の口座に入金されない
ギリギリまで踏ん張ったかいがあったと思った
・・・もっとも学院側には悪夢でしかないだろうな
巌はソレも思った
冷泉院巌は入金されていないと知った時の学院の上層部の顔を想像するだけで気が晴れた
なにせ冷泉院グループは国内企業グループ10位なのだ
毎月の寄付金もそれなりの金額になる
ソレが無くなったら悪夢だろう
明日になったら大騒ぎになっているだろう
それを思うだけで満足だ
もっともこれは前振りだ
本命はいじめをした奴らだ
外堀から徐々に埋めていき、最後にはすべてなくした上に、公園か橋の下でダンボールの家にでも住んで貰うつもりだ
だからこんなことだけでは許されはしない
まだまだ続くぞ?
そう思うだけで巌は嗤えてきた




