1日目
――あれ? ここどこだ?
目を開けると、なんか変な場所にいた。
白い石畳の、やたら立派な建物。……どっかの宮殿みたいな?
「ああ、転生者様よくぞいらっしゃいました!」
「え、はい?」
声のした方を向くと、変な格好をした十代後半くらいの少女がいた。
黒い、長い布の服、よくRPGの魔法使いが着てる、ローブ? だっけか?
「あの、ここは?」
「ここはヴァルガリア王国の王城です。今、王国は魔王の手によって存亡の危機に立たされているのです。そこで伝説に語られる転生者を召喚することにしたのです!」
……ほわ~い?
何ですか、その異世界転生のお決まりパターンは。
しかもタイミングからしてその異世界の勇者って――、
「そうです、あなた様こそが我が国を救う転生者様なのです!」
あ、やっぱりねー。
「……帰る」
「ええ、何でですか!? 国を救えるのはあなただけなのに!」
「いきなり知らんトコに呼ばれて、いきなりその知らんトコから極めてデカイ責任背負わされる身になってみろよ! 誰だって速攻で帰るって言うに決まっとるわ!」
「で、でも、伝説では先代の転生者様は『報酬次第だ』と言って、当時世界的脅威だった邪神教団との戦いを引き受けてくださったそうですし……」
「そいつがバカなだけだよ!」
脳みそに虫わいてんじゃねぇのか、先代転生者。
「それに……」
「あンだよ?」
「帰る手段ないですし」
「うっわー、そっちパターンかー。最ッ低だなこの国、最ッ低。滅んでよし」
「何でそんなこと言うんですかー! 助けてくださいよー!」
召喚者の少女は俺にすがってきた。
ええい、知るか!
人を勝手にこんなところに呼び出しておいて「帰る手段はないので諦めて国助けて。魔王軍と戦って。一個人で」とか要求してくる国など有百害無一利!
「ううう、これじゃあ私達、本当に殺されちゃう……」
「自分達が殺されないために俺に死ねと言ってる件について」
「ちーがーいーまーすー! 転生者様はすでに最強で最高で無敵で無双な力を手に入れてるんですー! 転生者特権がおありになるんですー!」
何言ってんだ、こいつ。
「窓の向こうに山が見えますよね?」
「あ? ああ、見えるな」
少女が指さした方向には窓があり、その向こうに確かに山が見えた。
「あっちに手をかざして『えい』ってやってみてください」
「えい」
チュドーンッ!
山がえぐれた。
「……え?」
固まる俺。
「――ね?」
微笑む少女。
拝啓、故郷のママン様。
俺、自分でも知らないうちに異世界で戦略兵器にされちまったよ。