ある少年の独白
生きることを諦めた。
随分前から諦めていた。
人間が最も狂喜を感じる瞬間、僕は自身のコンプレックスに泣いて。
幻想岬から幻想海を眺めている。
僕は興奮の感情と。
狂喜する感情を忘れて。
今日も、幻想郷の上に生きている。
腐臭を運ぶ熱腐風を浴びて、僕は幸せを知らないまま。
無価値な一日を過ごす。
神様がいるならば、僕の命を誰かにあげてもいいのに。
僕より生きたがっている人間はこの世界にたくさんいるのだから。
興奮と狂喜を感じることのできる人々がたくさん居る。
だからこそ、生きる事に価値を見出せない僕など生きていても無価値だと思う。
きっかけは、ほんの些細な事。
春が訪れた十四歳の頃、皆が浮かれていた。
僕もその内の一人。
大人の女性に誘われて、僕は初めての経験をした。
幻想岬の近くに建つその人の家で。
だけど僕は普通ではなかった。
僕には、欲求が存在しなかった。
女性の身体を見ても、ましてやそれを触ってみても、興奮もなければよろこびもない。
幼かった僕はさほど気にも留めず、女性はそれを面白がるだけだった。
その人との関係は、僕が十七歳になった今でも続いている。
それからは、頻繁にそれを体験するようになった。
知識がつくにつけて、僕は自身の異常さに気づかざるを得なかった。
僕は、この狂った島に相応しい異常者だったのだ。
ここは、幻想郷。
来るもの拒まず、去る者を追わぬ島。
島を囲む海を幻想海、その海を見渡せる岬を幻想岬と島民は呼ぶ。
旅行者は幻想島と呼ぶが、島民達はそれを嫌う。
何故全ての呼称に幻想と付いているのか、僕は知らない。
もしかすると、僕が立っているこの島は幻想の産物なのかもしれない。
そう、昔は思っていた。
あの事件も、幻想に過ぎなかったのか。
汚れた人間達が住む幻想郷、噎せ返るような夏の空の下。
この島を揺るがせたあの殺人事件を僕は思い出した。