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2,勇者、鬱憤を晴らす

次回からグダグダします

ブルースカイはユーアリア王国の王宮の謁見の間にいた。レッドカーペットに膝まづいて頭を垂れていた。


「面をあげよ」


しわがれてはいないが、低く重い声が響いた。玉座に座るのは勇者が3年間見続けた国王リアステイン・ユーアリアである。魔王討伐がなされ、豊富な資源のある魔大陸を制圧すれば国力も上がり、やがては人間大陸、アースフィリア大陸一の大国へと成り上がることを頭の中で描いているが、そんな素振りは見せないようにしているが嬉しいのが隠せず、若干口の右端がぴくぴくしていた。しかし国王の周りにいる重鎮、しいてはレッドカーペットの両端に屯している貴族たちは隠すつもりも無いのかニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。その様子に気づいているブルースカイの顔は無表情だった。


「此度は大義であった、異世界から召喚されし勇者ブルースカイよ。仕方がなかったとはいえ無理矢理連れてこられてしまったこの世界で文句のひとつも言わずによくぞここまでやってくれた。お主のおかげで平和は守られた。ユーアリア国民、しいてはアースフィリア大陸の民全てが感謝するだろう。今一度礼を言わせてくれ。」


一体どの口が言ってるんだか…口には出さないがブルースカイは内心呆れていた。魔王から聞いたことを総合して考えてみれば、国王がやったことは異世界から誘拐・拉致、王宮に軟禁、強制訓練、極めつけは魔大陸への宣戦布告とも取れる勇者の送り出しだ。ユーアリア王国の兵力では魔大陸の1番外側にいる魔物にすら勝てないだろう。勇者が切込隊長として魔大陸へ行けばそれは人間側からの宣戦布告と取られてもおかしくはなく、勇者が負けて人間対魔族の全面戦争となった場合、真っ先に滅ぶのは魔大陸に1番近いユーアリア王国であろう。魔族の進軍が王国で留まれば良いが、王国で止められなかった場合は周りの国々はたまったものではない。その責任を問われることになれば国王は異世界人であるブルースカイが勝手にやったことだと言って真っ先に切り捨てただろう。それを理解しているブルースカイは無表情を貫いていた。


「勇者よ、魔王討伐の証である魔王の角を見せてくれるか?」


そう言われてブルースカイは王国から出発する時には持っていなかったマジックバックから、鮮やかな青紫色の角を取り出した。それを観衆も見える位置まで持ち上げると「おおっ!」と声が上がった。


「うむ、確かに魔王の角であるな。よくやってくれた。褒美を与えたいが、何か欲しいものはあるか?」


それを聞いたブルースカイは即答した。


「勇者の称号を返上させてください。」


まわりにいる貴族たちが騒がしくなった。てっきり元の世界に戻せと言われると思っていたからだ。まあ戻す気は無いのだが。


「それは何故だ?国を救った英雄がその名誉を捨てると申すか?」


少し眉を顰めながらも国王は聞いた。


「私は魔大陸での生活で疲れてしまいました。勇者の称号があってはどこへ行っても気が休まらないでしょう。そして何より、私はこの世界を見て回りたい、諸国漫遊の旅に出たいのです。それが私の望みです。」


まるでミュージカル女優のように身振り手振りを入れながらブルースカイは語った。それを聞いた国王は渋りながらも了承した。


「良かろう、では謁見が終了したら勇者の証である聖剣も返上してもらおう。できればお主にはこの後魔大陸に送る開拓隊の護衛を頼みたかったが…仕方が無い。」


それを聞いたブルースカイはハッとした顔をして焦り始めた。


「…国王様、現在魔大陸は結界によって入ることが出来なくなっております…」


「何だとッ!?どういうことだ!」


それまで平静を保っていた国王は焦りと怒りを混ぜたような表情で問い詰めた。それに気づきながらもブルースカイはわざとオドオドと説明し始めた。


「私が、魔王にとどめを刺す直前、魔王は己の残存魔力を全て使って、魔大陸全体に結界を張りました。その結界は、魔物と魔族には害を与えず、それ以外の者が外部から触れると魔力を全て吸収されてしまいます。私は内部から出る時には何も感じませんでしたが、出た後に確認のために触れると一瞬で半分以上吸われてしまいました。しかも死に際の魔王の言をお伝えすると『私の残存魔力だけでも100年は維持されるだろう、そして人間の愚か者共が触れる度に吸収する魔力によってより長く維持されるであろう。100年もあれば時代の魔王も現れる、我の魔王としての役目は果たされた…』との事です…。」


それを聞いた国王はガックリと頭を垂れた。魔力は生命エネルギーの1種であり、それが無くなれば死にはしないものの、無くなれば短くても1週間、魔力回復量が少ない者なら1ヶ月動けなくてもおかしくはない。それに勇者であるブルースカイは魔力量も常人の数十倍から100倍近くある。ブルースカイを持ってしても一瞬で半分以上吸われてしまうのであれば王国一の宮廷魔術師でも一瞬で全て吸われてしまうであろう。つまりは魔大陸の開拓は絶望的になったということである。


「わ、私は任務を遂行したので先の宣言通り、旅に出させてもらいますね…。」


とブルースカイはそそくさと謁見の間を出ようとするが


「待て!結界の件については貴様の失態である、よって結界を破壊するまでは残ってもらうぞ。」


国王はそれを許さなかった。しかし先程国王は旅に出ることを承諾したのに結界のことを話した途端、あっさりと手のひらを返したのだ。さすがにブルースカイも黙ってはいられず


「国王様、私は向こうの世界ではこちらでいう平民でした。しかしこちらに無理矢理連れてこられていきなり勇者だと言われ、こちらでの女性の適齢期を捨ててまで訓練に励み、魔王討伐を成しました。それまでの間、国王様以外の男性との接触は禁じられ、国王様からは『お前の使命は魔王討伐である』、『魔王討伐が成されたあかつきには褒美をやろう』等と散々言われ続けてきました。そして4年、4年ですよ!女を捨ててただただ魔物を屠り、道端で用を足すことも気にならなくなり、魔王城の付近には川なんてありませんでしたから水浴びすら出来ず、下手したら貧民街の住民よりも不潔でしたよ!ようやくそんな環境から解放されると思ったのに、国王様はまたそんな生活をしろと仰るのですかッ!!さっきは旅を認める発言をしたのにあっさり手のひら返しやがって…ふざけんなッッ!!!」


今までの鬱憤を全て晴らした。少し肩で息をするブルースカイを見て一瞬慄いた国王だったが次の瞬間には怒りを顕にした。


「無礼であるぞ!衛兵よ!この者を捕らえよ!」


国王の一言でぞろぞろと衛兵が駆けつけてきた。衛兵たちはブルースカイを囲うように立った。


「フッ、貴様には結界が壊されるまでこの国に従事して貰うぞ。とりあえず結界を破壊するための部隊が結成されるまで地下牢で大人しくしているがいい。かかれっ!」


衛兵たちはブルースカイに詰め寄るように近づくが、この場にいる全員が忘れていた。ブルースカイはたった1人で魔物が蔓延る魔大陸を横断した化け物だということを…。鞘から剣が抜かれる時にする摩擦音がした次の瞬間、衛兵全員が吹き飛んでいた。部屋の壁にぶつかる、周りの貴族を巻き込むだけなら上々、壁にめり込む者もいた。


「えっ………」


その惨劇を見て誰も言葉を発することが出来なかった。そんな中、ブルースカイはため息を吐き、口を開いた。


「あー、ちょっとやり過ぎたか…まあ誰も死んでないし大丈夫でしょ。王宮付きの衛兵なんだから少なからず鍛えてるでしょ、恨むんなら私の力を忘れてた国王様を恨んでね。それじゃあ私は旅に出ますね!あ、聖剣はお返しします。だけど旅費としてこれだけ貰ってきますね。」


そう言ってブルースカイは近くに倒れている衛兵の腰についてる剣を鞘のベルトを引きちぎって左手に持ち、聖剣を国王の前に放り投げた。


「じゃあね、こくおーさま。【転移】!」


満面の笑みでそう言い放ち、ブルースカイの掲げた右手の中指に付いていた髑髏の指輪が赤く光ったかと思うと、そこにはブルースカイは居なかった。


「くっそぉぉぉぉぉぉ!!!」


謁見の間に国王の慟哭が響いた。

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