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ドリーミン・アンノウン  作者: ぶんぶんまる
 1・渇きの空、曼珠沙華の見た夕暮れ
5/5

4.既知、未知、非常識

 立派なタンコブが横並びにふたつ。


「……七鵜(ななう)実華(みか)。元エコーよ」

「オーマ=ザッカルディ。元、ひとりぼっちのフォックスだ」

「阪上春人……です。デルタ、でした」


 互いに自己紹介をするという、普段ならごくごく当たり前の儀式に至るまでにどれほどの悶着があったかは、先着組ふたりのタンコブを見れば明らかだ。

「はい、よく出来ましたっ。それじゃあ、本題に移るわね」

 黒髪ツインテールの悪魔と青髪の軟派男、でふたりの印象はすっかり固定してしまった。加えて、距離を置いた関係でいたほうが身のためだろうとも。

 先ほど右手を(暴力的に)酷使したエリスは、けだるそうにその右手を振りながらバインダーへと視線を下ろす。

「本当ならここに実華ちゃん以外のエコーの三人がいるはずだったのだけど、三人ともバイタルかメンタルかによくないところがあったから、上と相談してしばらくは内勤でいてもらう決定が出たわ」

 エコーは今回四人生存した。うち、自分ひとりしか健常でない事実に彼女は嘆息した。

「そこのヘタレよりも更にだらしないのがウチに三人もいたのね……心外だわ……」

「その言い方は酷だぜ嬢ちゃん。少年のメンタルが強かったのかもしんないだろ?」

 すかさずオーマがニシシと笑いながら茶々を入れる。


 元々良くなかった七鵜の機嫌がみるみる悪くなっていくのを見ると、或いはだが、ふたりは旧知の仲なのかもしれない。悪い意味で。


「わたしもそう思うけど……まぁ、その話は置いといて――」


 エリスはふたりをいさめ、バインダーを机に置く。なお、現在はエリスを上座にオーマ、七鵜、そして下座に春人という位置関係である。

「阪上くんたちにわざわざ来てもらったのはね、四日前、状況に動きがあったからなの」

 茶も茶菓子もない殺風景な待合室。布擦れと、エリスの声だけが耳に入る。

「みんな、チバの現状は分かってると思うわ。オーマ、答えてみて?」

「先月ウォール・ノダで戦術級ノーマッドとソルジャーが衝突。で、ウォール・ノダは決壊。サイタマとイバラキの連中がいつでも入ってこられるようになっちまったな。しかも、そこらは最近ノーマッドホールがよく出るって噂だ。正直、ピンチさな」

 ウォール・ノダ。現実で言えば埼玉県、茨城県の県境にある野田市に位置するノダに建設された、巨大な長城だ。七十年ほど前に建設されて以降、エリアの境を守る精鋭と共に外敵を撃退していたが、ついに先日、超大型の戦術級ノーマッド――ノーマッドルジャーと同様に格付けがなされている――からの攻撃により決壊してしまった。


「先週みたいにイバラキの連中は何度かちょっかいかけてきてる。あそこは基本駐屯してるソルジャーだけで対処してるから、あたしらにはあまり情報が入ってこないんだけど」

 目下、イバラキエリアとは敵対関係。サイタマとは睨み合いが続いており、いつトウキョウエリアからの侵攻があってもおかしくない。

 ノーマッドホールとはワームホールのようなもので、ノーマッドが出てくる際に生成されるものだ。ニホンを形成する全エリアはノーマッドの神出鬼没さに頭を悩ませ、もしくは腹を立てている。

「そうね。ふたりの言う通りよ」

 そいつがこの頃、イバラキとの境でよく目撃されているのだ。

「……つらいですね」

「ああ、つらいぜ」

――チバエリアはかつてない苦境に立たされていた。

 春人がぼやき、オーマが肩をすくめる。ずんと空気の重量感が増す。


 が、その空気を打ち消したのは、またエリスだった。

「でも嬉しいことがあったわ。四日前、サイタマから同盟の話があったの」

 机に脚を乗せて両腕を頭の後ろにやっていた七鵜が、がたりと姿勢を正した。

「……エリス、それ本当なの?」

 オーマは目を細めた。嬉しくはなさそうだった。

「にわかにゃ信じがたいよなぁ?」

 ふたりの反応は、ソルジャーになって日が浅い春人にも得心がいく。


 サイタマエリア。チバも含め七つものエリアと接する激戦地域にあって、ノーマッドからの攻撃にも揺らいだことのない、ニホンにおいて確固たる強さを誇示する有力エリアだ。

「ええ。わたし達が持つ海上アルケープラントと、外洋へ繰り出すチャンスがお目当てみたい」

「……そういや、ニホン以外にも大陸があるって説がこないだの戦闘の前日に実証されたんだったな。やっこさん、耳が早いもんだ」

「チッ、どっから情報仕入れたんだか分かったもんじゃないわね。カントー一帯でも何考えてるか分からないエリアだって有名だけど、ねぇ、ほんとに信用できる相手なの?」


 信用するも何も頼らないとやってられないんだよ! と言おうとして春人は口をふさいだ。

 そんな気がしたのだ――どうせ聞き入れられないと。


「わたしもそう思ったのよ。『どーせ向こうは偉そうに吹っ掛けてくるんだろうな』って思ってたんだけど……来てるのよ、もう」

「来てるって、何がですか?」

 春人がようやっと口を開いたとなれば、エリスは肩をすくめた。

「んん~……大使? 使者? とにかくサイタマから派遣されてきた人よ」

 そして、大きなため息をつく。


「でもね、来てるって情報だけで、チバのどこにいるかは聞かされてないのよ」


 対して七鵜が「はぁ?」眉を吊り上げて声を荒げる。

「ちょっと待ちなさいよソレおかしくない?」

「おかしいと思うわ。そんな大使、聞いたことないもの……」

「んん~~~~~。ただの噂ってことにしようぜ? な?」

 これにはオーマも動揺を隠せない様子。

 春人もそうしたいと思っていたが、

「あ」


 誰にも聞こえない小さな声が喉の奥から漏れる。


「ああ……」

――そういえば最近、近所に知らない人が現れた、なぁ。


 まっさか、ねぇ?

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