2《憂鬱な聖女様》
本格的に物語が始まっていく予定です。
エルフィリア目線で当分書いていきます。
「エルフィリア様。神殿長がお呼びでございます。」
首都ヘイゼントの厳かな神殿に一人の聖女がいる。
聖女は魔族にあてられた穢れを浄化し、魔を滅する力を持つ。
聖女の名を持つ者はこの世界に6人しかいない。
世界を治める5大国に一人ずつと聖国と呼ばれる5大国に挟まれる中立国家に1人しか存在しない特別な役職なのだ。
そして、私はその聖女なのだけど・・・・。
『分かりました。すぐに向かいますと伝えてもらえますか?』
「承知致しました。御前失礼致します。」
伝言役の者に返事を返し彼が扉から出ていくまでを見つめる。
パタン…・・閉まったよね。
扉まで駆け寄り扉に耳をつける。
前の廊下の気配を扉越しに確認し被っていたベールを脱ぎ捨て限界まで息を吸い――――叫ぶ!
『ウゥオォォオォォォ!!』
思っていたより大きく出てしまった声が神殿の《祈りの間》に響き渡る。
思わずあたりを見回し扉を見つめ人の気配を伺う。
一応防音設備は完璧だし、結界もあるので声が漏れる心配はほぼないのだが。
・・・はぁ。誰もこない。良かった。
普段、聖女をしているときには絶対みせることのないいわゆる胡座で床に座る。
一応きれいに掃除してあるし。
聖女という地位はこの世界の女子なら誰でも憧れるらしい職業だが誰でも努力でなれる訳ではなく残念ながらその資質は生まれながらに決まっている。
聖女は必ず聖国に生まれ一定の年齢に達したときそれぞれの大国の王城へと守護姫として派遣される。
一番力の強い聖女だけは母国である聖国に残り聖国の護りと周りの国々への浄化の光を届ける役目を担う。
魔族を従える邪神。
それに対抗できるのが聖女の持つ光の力だ。
聖女はその時代必要な人数以上は産まれない。
一人の聖女が死ねば次の聖女が生まれるなんとも不思議な話だ。
3000年前の初代の聖女の頃からこの世界の理は続いている。
その初代聖女フレイラの記憶は私に受け継がれている。そう、彼女は私の前世なのだ。
まぁあの頃は聖女なんて言われてなくて異端者だのなんだの言われてたのだけれど。
私は転生を繰り返して今が5度目の人生。
名をエルフィリア・グレイシー、17歳。
いろんな世界軸に転生し、
①一応聖女→②大貴族の令嬢→➂商家の息子→④今は無き国の王女→⑤普通の日本人(不良娘)→⑥聖女(今ここ)
すべての記憶を引き継いで現在再び①の世界に転生し"聖女"やってます。
今回まで一回も同じ世界に生まれなかったから本当に今回はビックリした。まさかまたこの世界に生まれるとはね。
ところで聖女のイメージってやっぱり清く正しく美しく。
前世では不良娘だった私が二度目とはいえ聖女なんて向いてないというか。
貴族の娘だった頃の作法なんて忘れたし世界自体違うからマナーは通じないし。そもそも初めの聖女時代いわゆる3000年前と今とでは環境が違うし。
そう考えると日本の生活が一番よかった。
地球。素敵な世界だった。
っといつまでも駄々をこねるわけにもいかず。
立ち上がりヴェールを拾う。
『神殿長のところに行かなくてはね。』
前世の記憶がせめて無かったら聖女という役職ももっと楽しんでできたかもだけど。
でも聖女として生まれてしまったからには代わりはいないし仕方ない。
だから溜まったストレスはたまにさっきみたいに叫ぶことで発散させる。
1つ息を吐きベールを被る。
よし。ここからは聖女エルフィリア。
気持ちを切り替え神殿長のもとへ向かう為に歩きだした。