0.5-5犬とノンオイルフライヤー
さて、と、ディアンとの話を適当に切り上げて、私は窓際の机に向かう。
魔法の筆記帳に知りたいことの大項目だけは記したが、それとは別に最優先で確認すべき事項を優先度順で記載しようと新しくページを捲り、
『最優先確認事項
1.私アメリ自身の拙さ、能力?
2.ディアン、神器級?
3.その他魔導具、一般的なものとどの程度違うのか?
4.文化?文明?の状態、発展度合い。
5.お風呂は存在するのか?』
と、記載した。早々に知りたいのは、こんなところだろうか。
あとなにがあるのかなーと考えていると、後ろから声が掛かる『主、主よ』、振り向かずに返事をする「なに?」『まだ旅には出ないのか?』「旅?なんで?」『外套と云えば、旅であろう』「ディアンは旅に出たいんだ」『是である、外套たるものの本懐なり』(ふーむ?)
たっぷり考えてからくるっと振り返り、ディアンに向かって指をさす。
「あのねぇ、云っておくけど、というか知ってるだろうけど、私にはこの世界の知識がないの。そんな状態で旅に出るなんて、危ないことなの、わかる?」
『余が護るのじゃ、なんの危険があろうか』
「わかってない、わかってないなぁ」指を振る「先ず、お金がそんなに有りません、そしてお金を得る手段もわかりません。食べ物を得るにしても、宿を取るにしても、お金が必要なんです。ありすぎてもなさすぎても駄目なの、程よい量のお金が要るの。更に云えば帰る家が有りません、拠点が無い状態で旅に出るのは、それは最早旅ではなく放浪か迷子よ」
『拠点は此処があるではないか』
「自分の家だと思っていいとは言われましたが、この家この部屋は好意に甘えて間借りしているだけです。も一つ云うなら旅には目的が必要でしょ、今は其れがありません」
『ふーむ、人族というのは面倒なのだなぁ』
「あと云っておきますが、私は穏やかに暮らしたいだけなの。定職についたら、たまの休みにちょっと遠出の旅行をするとか、そういうのは大歓迎だけど、現状で旅には出ませんし、出れませんからね」再度くるっとして机に向かう。
後ろからは『そうかぁ、そうなのかぁ…』とあからさまにがっかりとした声。
魔法のペンを指先で回しながら「まぁ、散歩ぐらいだったらいいけどねぇ」と云うと、
シャキッとした声で『散歩旅!それは良い!さぁ行こう!今行こう!』と言い出す始末。
「夕方、時間が有ったらねぇ」と素っ気ない返答をしておく。
(…なんかこいつ、犬っぽい、な。)と思うのであった。
・・・
・・
・
ディアンと適当に会話しつつ、大項目のページを行ったり来たりしながら思い付いた順に疑問を書き付けていった。話し相手が居るのはいいものだ、というかディアンが森で迷子になってる時に話し掛けてくれていれば、柵の前で大号泣するなんていう痴態を演じなくてもよかったのではないか、という思いが頭をよぎる。むう。
話していて気づいたが、どうやらディアンの知識量は結構な物だ、しかし実経験は無い様子で、若干ちぐはぐな印象を受ける、圧縮教育を受けた子供のようだ。
・・
・
ステータスオープンして生活魔法(4属性各10計40種)を一つずつ鑑定していると大体のは便利そうなのだが、中にこれは明らかに危険なのでは?というか生活か?ってのもあって、腕を組んで唸ってしまう。鑑定さんもそうなのだが意思を精確に汲んでくれるようなので、誤射誤爆という事にはならないだろうが、危険なのを人に向けるのも、人から向けられるのも、嫌だなぁ。気をつけよう、などと考えていると、ドアがノックされてフィルから声が掛かる。はーい、と返事をするとドアが開き「アメリちゃん、どう?訊きたい事は固まった?」「はい、先ずは大まかにですが」「そう、じゃあ向こうでお茶しながらお話しましょうか」魔法の筆記帳にペンを挟んで、あとディアンも持って広間へ。
テーブルに筆記帳を、隣の椅子にディアンを置くと、「アメリちゃん、何か食べるー?」と台所から声が掛かる、台所へ歩きながら「あー、と、軽くでしたら」と返す、「そうねぇ、何が良いかしら、そうだアメリちゃんは料理出来る?」
私は「自慢じゃありませんが、不得手です」ときっぱり、「…そうねぇ、全く自慢じゃないわねぇ、じゃあ教えてあげるから、アメリちゃんに作って貰いましょう、魔法で」
「…魔法で、ですか?」「そうよ、渡り人が得意な料理があるの、大丈夫よ、簡単だから」フィルはそういって暗所から小さめのジャガイモを3つ取り出す。それと、手鍋、丸金網、塩の壺、平皿が用意される。
2人で手を洗い、「では作りましょう、魔法の練習になるから可能な工程は全部魔法でやりましょ。最初は水属性生活魔法Lv4洗浄でイモの表面を洗って、」「はい、『洗浄』」芋が洗われた。
「次にイモの芽が出ていたら、土属性生活魔法Lv1掘で芽の周りを抉ります」「はい、『堀』『堀』」二箇所の芽が抉られた。
「そしたら風属性生活魔法Lv5風刃でくし形切りにします」「…くし形切り?」「一個見本にするわね」サッとナイフとカッティングボードを出し、手慣れた感じに、一つを半分に、半分を4等分した。「こうよ、簡単でしょ?今ナイフとボードだから上から下に向かって切ったけど、魔法でやる場合は、手の上にイモを置いて、下から上に向かって切ってみて」「はい、『風刃』『風刃』『風刃』『風刃』、『風刃』『風刃』『風刃』『風刃』」少し大きさにバラつきが出たが、芋が切れた。
「手鍋の底に丸金網を敷いて、切ったイモをサッと油に絡めて、皮を下に並べて、、、あぁ、並びなんか適当でいいのよ、うん、そうそう、そしたら蓋をして、鍋を両手で左右から挟んで、火属性生活魔法Lv8揚で」「はい、『揚』」「10分ぐらいそのままにしててね、私はその間にお茶の用意しちゃうから」「はーい…」
(…なるほど。今、私はノンオイルフライヤーだ。)