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冒険者ギルドの受付担当は異世界転移者  作者: 猫乃 縁子
第0.5章-前日譚-異世界就職
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0.5-1異世界で迷子

 目覚めると其処は森の中だった、大木の隆起した根を枕にしていたようだ。

見慣れぬ外套を纏っていて、やはり夢ではなかったか、とため息一つ。

「どうすればいいのよ…」とひとりごちる。


 陽は未だ高いが暮れてしまったら拙いと思い、先ずは衣食住、特に食というか水だなぁとぼんやり考える。

持ち物を確認しようと、愛用のトートバッグを草の上に置いて、開く、が。

「なにこれ……」鞄の中がみえない、見えないというか液体なのか固体なのかわからない膜のようなモノで荷室が満たされている、恐る恐る近くに落ちていた小枝で膜を突付いてみる、膜を突く感覚が無い。出したり入れたりしながら枝の半分ほどが入ったところ、枝が消えた。


 ついさっきのようなずっと以前のような、少年に「衣類と持ち物を魔導具(マジックアイテム)化しておきました」と、云われたことを思い出す。

トートバッグを鑑定したいと思うと、鞄から半透明の板が立ち上がった、其処には

『魔法の鞄

鞄自体の重量固定、時間経過有り、所有者及び使用者以外出し入れ不可。遺産級

容量:2.5/2000kg

所有者:アメリ

内容物:

小枝×1

技能紙×1

水源の魔導具×1

魔法の手帳×1

魔法の布袋×1

魔法の袋飴×1

・・・

・・

etc』


 「…2トンって私の鞄はトラックか…これも容量隠蔽しといたほうが良いのかなぁ…しとくか」と、取り敢えず1/10の200kgにして、小枝を取り出したいと思いながら膜に手を差し入れてみる、指先に小枝の感覚が有り、掴む。手を引き抜くと先ほどの小枝が握られていた。

 続いて、技能紙を取り出してみる。これも隠蔽しとかないと拙いことになるかもなと、技能紙の表面を撫でて無地の紙にしておく。

 水源の魔導具ってなんだろうと思いながら取り出してみると、500mlペットボトルの飲料水だったものが、綺麗なガラス瓶になっていた、コルクを抜いて、臭いを嗅ぐ、まぁ大丈夫だろうと一口、二口、と飲んだ。口を離した時、違和感に気付く。「これ、減ってなくない?」ガラス瓶を逆さにして木の根にジャバジャバと水を掛ける、やはり瓶の中の水量に変化が無い。助かった、と思うと同時に、いや、多分これも拙い物だ、と『水源の魔導具』を鑑定し『水瓶』に隠蔽した。


 多分、手持ちの道具は全部に何かしら隠蔽をしないと拙いのだろうが、ずっと此処に居るのもそれはそれで拙そうなので、一先ず歩き出そうとする、さて、どちらへ向かうか…

 水の心配が無くなったので、数日は大丈夫だろうが、早めに村でも街でも良いが人の集まったところに行きたい。と、周囲を見渡して比較的明るい方向へ歩き始めた。


・・・


・・



 数時間歩き続けて、夕暮れ時。拙い、誰にも会えないどころが文明の気配すら見当たらない。

日中は18度ぐらいだったのでハイキングに丁度良かったけど、夜寒くなったら危ないかも知れない。

 外套のフードを被り、手頃な枯れ木を杖代わりに歩き続けたが、何というか、もしかして大分旅人っぽいかなぁ、などと馬鹿なことを考えもしたが、旅人というより迷子だろうと思い直した。

 途中見掛けた動物も、リスやキツネなどの小中動物ぐらいだったし、此方をみてすぐ逃げてしまったので、魔物や大型肉食獣が居なくて良かったなぁ、なんて軽く考えていた。いい加減、心細い。


 途方に暮れつつ、日も暮れつつ、さて、本格的にどうしようか。と考えながらも歩を止めずにいると、遠くの方で細く白い煙が上がっているのが見えた。あぁ、煮炊きか風呂の煙だろうかと安堵して、よし、あそこへ向かおうと、更に歩を進める。飴と水しか口にしていないから空腹だなぁと感じながら。


 日が完全に暮れようとする頃、高さ2mほどの木柵に囲われた明かりの灯った丸太小屋が見えてきた。

ギリギリで間に合ったといえるだろうか、柵の周囲をぐるっと一周、ん?

入り口らしき場所が見当たらない、もう一周。無い

暗いので、火の生活魔法Lv1ライターを指先に灯しながら見落としの無いようにじっくりと更に一周。無い

 こうなったら仕方が無い、最後の手段だ「…スゥ……ごめんくださーい!!!」大声を出してみた。


 ………返事はない。


 「…スゥ……ごめん!!!くだぁぶぇっくっげほっげほっ……」思いっ切りむせた。

鼻水と涎にまみれて、次いでに悲しくて涙まで出てきた、ぐしゃぐちゃの顔で、柵に縋り付きながら「ごべんぐだじゃい…」と繰り返す。その場にへたり込んで嗚咽を漏らす。


 暫くして、小屋のドアが開く音がした、ハッとして顔を上げると、短弓に矢をつがえた青年が辺りを伺いながらゆっくりと出てきた。

 柵向こうまで警戒しながら歩いてきたが、危険はないと判断したのか、弓から矢をおろして「こんなところで人族の子供が何しているんだい?」と語りかけてきた。


 「ずいまべん、わだし、あの、迷子なんでずぅ…」19歳にもなってこんな台詞を云うことになろうとは思っていなかった。

 青年は微笑み「そうか、それは大変だったね、取り敢えず此処じゃ何だから、家の中へおいで」と優しく云いながら、柵を横に撫でた。

 ズズッっとした音とともに、柵に人が通れるほどの隙間が出来、「ほら立って」と云いながら手を差し伸べてくれた。

 小さく「はい」と答え、片手で彼の手を取り、片手で顔を拭いながら、エルフのお家にお邪魔することになった。


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