序章後編
頭を抱えたまま私は黙りこくり、どうすべきか考えていると少年から「ところで話は変わりますが」と声が掛かる。
「召し上がらないのでしたら、頂戴しても宜しいですか」とモンブランに熱い視線。
面食らったが、少々微笑ましくも思い「どうぞ」と皿を少年の方へ。
「ありがとうございます」とまたも瞬く間にモンブランに食し、紅茶を一口。
ざっと思考をまとめ、私も珈琲を一口、
「幾つか質問があります。その、技能をいただけるのはありがたいのですが、そのどれもが現地でトップクラスなのでしょうか」
「そうなりますね、技能レベルが存在するものは最高値のLv10になります。最低値がLv1これがまぁ何というか初心者級、Lv3で大体一人前、Lv5でその筋の達人級、Lv7で人類最高峰、Lv9で人外級、で、その上ですから。例えば、剣術ですと、国一番の使い手がLv5ぐらい、大陸一番の使い手がLv7程度とお思いください、Lv10ともなれば剣聖ですかね」少年は微笑みを崩さない。
冷や汗をかきつつ、質問を続ける。
「所持技能及び技能レベルは他者に対して視えてしまうのでしょうか?また他者のを視るためには何が必要でしょうか?」
少年はなんてことないというように答える
「普通に生活していれば早々目にするものではありません、鑑定技能やスキルチェッカーという魔導具が無ければ視れません」
やはり、拙い。
「政治体制や国がどうなっているのかわかりませんが、Lv10の技能持ちが居たらどうなりますか…?」
しかし少年は何でもないように答える
「政治は王族や貴族が領地を統治している形態が最多でしたかね、まぁでも国のありようは、王国、帝国、大公国、連合国、少数部族集落、など様々です。良くて国の中枢に取り込もうとする、悪くて暗殺ですかね」
…おぅふ、やっぱりだ。
「穏やかに暮らせそうにないかやっぱり死ぬんじゃないですか……」
少年は、優しく微笑んでいる。
「ふふっ、まぁまぁ、それではオススメ技能を説明しましょう、先ず必要そうなのは隠蔽魔法ですね。此れが有れば、自身のステータスにマスク出来ますので安心ですよ。で、あとは~……」
・・・
・・
・
「……~と、云った辺りの技能がオススメですけど、如何でしょうか」
真剣に聞いていたし、時折質問などもしていたのだが、なんといっても未だ実体験していない、故に決めかねてしまう。
「……う~ん、概要はわかりました、けどどれが私に必要なのかが未だわかりません」
「まぁそうでしょうね」と少年は微笑みを絶やさない。
「では、こうしましょう、先ずは技能紙の隠蔽魔法のところに指を乗せて、欲しいと願ってみてください」
技能紙『魔法・魔術』の項目から隠蔽魔法を探しあて、人差し指を当て、願う。
隠蔽魔法の項目が発光して、文字が消えた。「あれ?消えちゃいましたけど?」
「あぁ大丈夫ですよ、次は『ステータスオープン』と唱えてみてください」
「はい、ステータスオープン」
半透明の板が何処からともなく出現する。其処には、
『名前:林田 雨理
種族:ヒューマン
性別:女
年齢:19
職業:渡り人
Lv:7
HP:100/100 MP:120/120
STR:6 DEX:12 VIT:10
INT:18 AGI:9 LUK:25
所持技能:
エイスゥーン大陸語Lv10、鑑定技能Lv10、生活魔法Lv10、収納魔法Lv10、隠蔽魔法Lv10』
ステータスボードを彼の方に向けながら「あぁ隠蔽魔法入ってますね、あと数値はこんな感じなんですけど、高いのか低いのかよくわかりません」
「そうですね、HPの平均は健康な成人で100前後、MPは魔法を生業にしてる人間が100~、STR~LUKの平均値は成人で10前後、ってところですからまぁ大丈夫なんじゃないでしょうか。隠蔽したほうがいいのは職業と各技能のLvですかね」
「職業は、渡り人ってバレると拙いんですか?どうすれば…?技能Lvは全部3でいいですかね」
「まぁ技能Lvと同じことですので、ある程度信用が置ける人以外には打ち明けないほうがいいでしょう、職業は旅人とかでいいんじゃないですか?まぁ3なら大丈夫でしょう」
ステータスボード上で指先をササッと滑らせて、「よし、取り敢えずこれでいいですかね」と、再度彼の方へ向ける。
『名前:アメリ
種族:ヒューマン
性別:女
年齢:??
職業:旅人
Lv:7
HP:100/100 MP:119/120
STR:6 DEX:12 VIT:10
INT:18 AGI:9 LUK:25
所持技能:
エイスゥーン大陸語Lv3、鑑定技能Lv3、生活魔法Lv3、収納魔法Lv3、隠蔽魔法Lv3』
「アメリ、これ年齢?」少年は問う
「乙女の年齢は秘密なものなんです、それにLvを低く表示させてるとはいえ隠蔽魔法を持っているなら隠蔽していてもおかしくはないでしょう?」
少年はにっこりと笑みを増して「うん、良いですね、その柔軟さとても良いですよ」
そう云いながら少年は技能紙を指先でトントントンと三度叩いた、紙の右肩に3/3という文字が浮かび上がった。
「さてと、そろそろ時間です。1つ2つと言いましたが、隠蔽魔法以外にあと3つ贈りましょう、ショートケーキとモンブランのお礼です。あともう一つ貴女から貰わないといけないですし、そのぐらいは良いでしょう」
その時、アメリの携帯電話が鳴った。
「あぁ、僕宛です、貸してください」と少年、慣れた動作でボタンを押して通話をはじめた。
「えぇ、もう、大丈夫ですよ、あと数分で、はい、はい、それで、大丈夫です、では後ほど…」
と通話を終える。
「さて、アメリ、申し訳ないですがこの携帯電話が貴女から貰うもう1つです、これは回収とさせて貰います。持ち込みが許可されおりませんので」と口を挟む間もなく流麗な動作で内ポケットへ。
「さぁ、では行きましょうか」
「え、あ、はい、えっと、何処へ?」残った珈琲を飲み切りながら。
「先ずは此処のお会計ですかね、御馳走様です」
「まぁ別にそれはいいんですけど」と技能紙を仕舞いながら財布を取り出して、伝票をもって立ち上がろうとする。
「アメリ、『ステータスクローズ』をお忘れなく」
「あぁ、そうですね、はい、ステータスクローズ」ステータスボードが音もなく消える。
両者立ち上がり出口へ、会計を終え、喫茶店を出て、裏手の駐車場側へ、其処で少年が指を鳴らした。
その刹那、世界が崩れ去り、全てが白い空間へと回帰した。
「さてアメリ、貴女は随分落ち着いていますね?」少年が問う。
「許容量を越えて、一周回っただけです」アメリは答える。
「うん、うん、その冷静さも良いですね、あぁこれはサービスです。」と云いながらアメリの頭から足先までを2本指で指した。指の動きに沿ってアメリが発光する、光が収まると、アメリの衣服がエイスゥーン大陸の一般的な旅装へと変化していた。「衣類と持ち物を魔導具化しておきました、それとこっちの通貨をあっちの通貨にしておきましたので、活用してください」
少年は噛みしめるように優しく微笑む「最後に幾つか」と前置きをして、技能紙の取り扱いに十分注意すること、魔物に、人に、ちゃんと注意をし鑑定して見極めること、などを言い含め、「それではお別れです、二度と逢うことは無いでしょう。アメリの人生に幸福を、『眠』」
アメリを襲う唐突で急激な眠気、瞼が閉じる、寸前に眼にしたのは、美しい少年が手を振る姿だった。「ありがと…ぅ…」と言い切る前に、アメリの意識は落ちていった。