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ぼくはヒロインになった。  作者: タンク
序章、セルムの町
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前途多難

 医者であるゼレーナから予想だにしなかった宣告を受けてしまい、気の抜けた声を出してしまったリリィ。


 なぜ今こんな場面になっているかというと、少し時間は戻る。

 まといと灯火の魔法が失敗してしまい、流石にこれはおかしいと判断したミムと、別室でフェルを預かってくれていたガドルが話し合い、病院で検査してもらった結果、現在リリィは呆けた顔を晒している。


「まずはどこから説明したもんか……。リリィちゃん、魔法の詳しいことはカゾットさんから聞いてるかい?」


 リリィは今日教えてもらったことを、隣にいるミムと共に説明してゆく。

 全て伝え終えるとゼレーナは「うーん」と困り顔を見せてから口を開く。


「まあこれは軍人にとっては気にもならないことだから知らなくても仕方ないね。魔法の発動の瞬間の話になるんだけど、これを見てほしい」

 ゼレーナは炉器ロキを操作して一つの映像を見せる。


 それはなんの変哲もない、軍人が火球の魔法を使う映像だった。これが一体なんだというのだろうか?


「これはごく普通の火球の図式魔法なんだけど、この瞬間、図式魔法を完成させて魔力線が輝く瞬間があるだろう? この瞬間に魔力が変質するんだ」

 そう言うとゼレーナは火球で放たれる寸前で映像を止める。

 火球の図形を描く魔力線が一際大きな光を放つ瞬間だ。


「魔力はそのままの状態で魔法を放つんじゃなく、この瞬間に防性ぼうせい魔力か攻性こうせい魔力のどちらかに変質してから魔法が完成するんだ」

 どうやら魔法は図形を完成させた瞬間ではなく、図形を完成させた後に魔力が変化する瞬間に成立するのだそうだ。


「そしてリリィちゃんの場合、この瞬間、魔力そのものが変質することを拒むように霧散している……としか考えられない」

「え……? で、でも障壁魔法は成功しましたよ? さっきの話の通りなら、魔法自体全部失敗しちゃうんじゃ……」


「うん、そこが肝心の部分なんだけどね。これも推測の域を出ないんだけど、リリィちゃんの魔力は防性に変質する際には問題なくて、攻性に変質する場合にだけ拒絶反応が出ている、と考えるべきだ」


 防性と攻性、言葉から連想されるイメージであれば、おそらくは防御手段の魔法の時は防性魔力に変わり、攻撃手段の魔法ならば攻性魔力になるのだろう。


 障壁魔法は間違いなく守るためのもので、火の魔法は攻撃手段として認識できる。

 なるほど、確かにその通りならば、障壁魔法だけ上手くいった説明はつく。


「ただ、図式魔法そのものは成功しているし、魔力が霧散しているタイミングを鑑みて、それ以外に失敗する理由はないんだ。そして、こんなことは私の知る限り初めての事例で、全てが推測の範囲でしか判断できていないのも事実だ」


 だがそうなると……

「じゃあ、まといが失敗した理由はなんですか? あれも肉体を守るための手段だって聞いたんですけど……」


 そう、その問題の説明にはならないのではないか。身を守る手段として教わったのに、まといは防性魔力によるものではないとは考えづらい。


「ああ、それは簡単だよ。まといって実は攻性と防性の複合技術なんだ。身体能力と身体強度を高めること、そしてこっちの方は効果が薄めで説明するのを忘れることも多いんだけど、肉体を魔力でおおうことで保護する効果があってね。前者は攻性魔力、後者は防性魔力で行われるんだ」


「なるほど……纏の中で肉体を保護する効果だけ成立したせいで、守ることに特化してあんなに柔らかい感触になったのね。私が成功したと見間違えたのもそれが理由……」

 納得したようなミムの表情はしかし、悩んでいるようにも見えた。


「でも確かにそうだとしたら軍人になるのは……」

 ミムの口から聞こえた言葉にびくりと肩を浮かせる。

 現役軍人の、しかも大隊長のミムにそう言われてしまえば、もはやどうしようもないのでは……


「まあこれはあくまで推測や予想でしかない。それぞれもっと多くの魔法で試してみないことには確定にはならないってことも覚えておいて。ただ、最初にも言った通り、この仮説が事実だと分かった時には、軍人になることはほぼ不可能だということも、頭の片隅に置いておかなきゃいけないよ?」


「……はい」

 リリィはゼレーナの言葉を重く受け止めた。


 おそらくだが、この仮定が間違っているというような奇跡は起こらない気がする。他の魔法ならば大丈夫だと思えないし、成功するビジョンが思い描けない。


 だがそれでもまだ可能性は残っている。ゼレーナの言う通り、他の魔法も試してみなければ結論は出ないのだから。


「よし、それじゃあ今日は帰って休みましょう? リリィさんも疲れただろうし、魔法の検証に関してはまた明日やってみればいいから」

 ミムの優しい言葉が、逆に重くのしかかるような気がするのも、リリィが抱く不安のせいなのだろうか。


「はい、わかりました。それじゃあまた明日」

「うん。気を落とさないで、きっと大丈夫よ」


 そうしてリリィはミムと別れた。


 〜〜〜〜〜〜


「はあ〜〜……どうしよう……」

 自室にて肩を落とすリリィに、フェルがおずおずと話しかける。


「ごめんなさいリリィさん。大変な時に一緒にいられなくて」

「いやしょうがないよ。テイムした魔物と一緒に魔法の勉強は出来ないって言われたらどうしようもないんだから」


 リリィとミムが魔法の修練をしていた時に、フェルをガドルに預けていた理由はそれだった。


 リリィとフェルは魔力網で繋がっている……わけではないのだが対外的には一応そういうことになっている。今回はそこが問題点だった。


 魔法を扱う時にその網を介して魔物に影響を与えてしまう可能性は極めて高いとされている。

 まだまだ魔法への理解が浅い新人が、魔法を使用する時に意図せず魔物になんらかの指令を下して、怪我人を出してしまうという事例はわずかながら存在する。


 そのため魔法をしっかりと学び、魔力網の作用や効果なども理解するまでは、魔物を訓練に連れて行くことはできないのだそう。


 ミムにそう告げられてしまえば、たとえか弱く幼い狼にしか見えないフェルでも連れて行くことは叶わず、しぶしぶガドルと共に別室で待機するしかなかったのだ。


 ちなみに魔力網は魔物と術者が離れた分だけ指令を出す効果を薄めてしまうので、別室で待機する分には術者の魔法使用が影響を及ぼすことはないのだという。

 それでも一応、ガドルのいた部屋には軍人が二人配置されていたようだったが、フェル曰く存外居心地は悪くなかったらしい。


「そうですね……もし他の魔法でも攻性こうせい変質が不可能だとわかったら、軍人になることに固執することはありませんからね?」

 フェルも優しい言葉をかけてくれるが、しかしもしそうなったとしたら……


「でももし本当にそうなって、私が軍人にならなかったらさ。私の相棒になる人を戦場に行かせて、自分だけ安全な場所で待ってることになるよね?」

 そこが重要な点だ。英雄と聖女は共に世界の危機に立ち向かうとされているなら、自分が戦場に立てないとしたらその分、相手に負担を押し付けてしまうことになる。


「それは……そうですが……」

 歯切れの悪いフェルの声に、リリィは自身の考えをしっかりと伝えた。


「じゃあ私はそうなりたくないから、なにがなんでも軍人になるよ。ルードさんだったっけ? 私と一緒にマジュウに立ち向かう人って」

「ええそうですね」


「そのルードさんがマジュウと戦って傷だらけで帰ってくるかもしれないのに、私だけ戦場に行くこともなく安全圏でのんびりするなんて、死んでもいやだよ」



「それは確かに気分の良い話ではないかもしれませんが、そうは言っても方法がないじゃないですか。ボクもリリィさんのサポートしかできないうえ、上位界の禁止事項に抵触するので戦闘には参加できませんし」


「そこが問題だよね……」

 リリィは図星を突かれて悩み出す。


 どうにかならないものだろうか。

 しかしいくら頭を捻ってみても名案は思い浮かばず、時間だけが浪費されてゆく。


「今はとりあえず休みましょう。まだそうなると決まったわけでもないですし、明日考えても遅くないんですから」


 フェルの助言により、今日はそれ以上あれこれと思考回路を働かせることをやめて、休息に当てることとした。

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