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最期の言葉

「りえ……」


 夫が最期に呼んだのは、かつての恋人の名前だった。

 霊安室に眠る夫の顔を見ながら、私はその女性を思い返していた。


「やっぱり敵わない……」


 それを知りながら私は、彼女を不慮の事故で亡くした彼の側に居続けて、自分の念願を叶えたのだ。


「これは報い?」


 手を見る。あの日あの階段で不慮を起こしたこの手を。


「あなたは……」


 そこで私は慄いた。

 夫が半目を開けている。


「知っていた……?」


 濁った瞳は笑って見えた。

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