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はつと鵺 〜天正伊賀物語〜  作者: 高山 由宇
【第一部】 時を超えて
7/48

第四章 処遇     ※写真付

挿絵(By みてみん)


里では、はつの命運を決める話し合いが行われていた。

挿絵(By みてみん)




 はつが投獄されてから三日が過ぎた。里では、いまだに何もことを起こさないはつを巡って議論が繰り広げられている。

挿絵(By みてみん)

 頭領の家の一室を借り、そこに里の主要な者たちと、はつを連れてきた(ぬえ)、はつと接触した草之助の十名ほどが鎮座していた。

「牢内の者は、いまだに何事もないか」

 頭領の問いに、つい先刻まで見張りをしていた菊乃が答える。

「はい。何事もございませぬ」

「あてがあるのではないか」

 口を開いたのは大江(おおえ)彦左衛門(ひこざえもん)。里の忍び組頭であり、浅葱(あさぎ)の父である。

「忍びならば、敵に捕らわれた時点で命を絶つもの。それをせぬのは、助かる見込みがあるからではないのか」

「なるほど。ことを起こさぬは我らに怪しまれぬため、自決しようとせぬは仲間がいるためと、そういうことですかな」

 小頭の篠崎(しのざき)文吾郎(ぶんごろう)が尋ねた。篠崎は菊乃の父にあたる。大江は、篠崎の問いに黙って頷いた。

「されど、それはあの娘が忍びであるならばの話です」

 岩のような大男が二人の話に割って入る。島村陣内(じんない)である。

「見張りを行っていた弥助によれば、ろくに疑いもせずに食事に手をつけたり、敵の前で無防備にも寝姿を晒したりと、おおよそ忍びらしからぬ行動が目立ったと聞き及んでおります」

 島村は弥助の父である。また、島村陣内の妹きよは、浅葱の母にあたる。浅葱と弥助とは、従兄妹同士であった。

「ですが伯父上、それが策であるということも考えられるのではありませんか」

 浅葱の言葉に、隣に座した菊乃も頷いた。

「私も、あの者は信用なりません。捕らえられているというのに、妙に落ち着き払った態度が気にかかります」

「落ち着いているのではありません。耐えているのです」

 異を唱えたのは、それまで黙って成りゆきを見守っていた草之助だ。

「あの者は、己は何も知らないのだと言って涙を見せました。私には、あの涙が偽りだったとは思えません」

「甘いな」

 蔑むように口を挟んだのは、弥助の隣に座した(いか)つい風体(ふうてい)の男だった。名を島村小次郎と言い、弥助の実弟にあたる。その左頬には、頬骨の辺りから顎にかけて、深々とした刀傷が刻まれていた。

「涙など、何もなくとも出せるように躾けることぐらいできよう。ただそれだけを以て疑いなしなどと、相も変わらず実に甘い男だな」

「小次郎」

 草之助を挑発でもするかのような口調に、弥助がすかさず制止の声を上げる。

「兄者、あんたも甘いぜ」

「小次郎、ならばお前はどうするのがよいと思うのだ」

「そんなもの、拷問にかければすぐにわかるだろうよ」

 拷問と言う言葉に、一同に緊張が走った。

「お待ち下さい。拷問など、ただの女には耐えられませぬ」

 草之助が声を荒げて頭領を見遣る。

「ただの女か否かを見極めるためにやるのだろうよ」

 小次郎が下卑(げび)た笑い声を上げた。

 小次郎の性格は、兄である弥助と正反対と言ってもよい。忍び衆の中でも好戦的であり、拷問と称し、まともに戦えない弱い者をいたぶることを何よりも好むという悪癖を持った男だった。

「手始めに鞭で百ばかり打ってみるか。だが、ただ痛めつけるだけではつまらぬな。相手が女であるならば、こちらも楽しませてもらう手もあろう。まずは裸にひん剝いたあと、里中の男どもに輪姦(まわ)させるか。その後、張型責めにし……」

下衆(げす)が……」

 声を辿り、小次郎から鵺へとみなの視線が集中した。

「何だと」

「聞こえなかったか。下衆と申したのだ」

「おのれ、鵺……」

「それに、お前の言う拷問とやらを一体誰がやると言うのだ。まさかお前ではあるまいな。お前では拷問にならんぞ」

「……どういう意味だ」

「お前の凶悪面では、その姿を見ただけで気を失うであろうよ」

「貴様、言わせておけば……っ」

 小次郎が懐に手を忍ばせる。鵺が手甲に忍ばせた棒手裏剣に手をかけた。互いに武器を抜こうとした刹那、頑丈な腕が伸び、二人の頭を床へと叩きつけるように押さえ込む。

「控えよ、小童(こわっぱ)どもがっ」

 島村陣内である。

「頭領、我が(せがれ)が粗相を致しました(よし)、どうぞお許し下さりませ」

 鵺と小次郎の頭を押さえつけつつ、島村自身も頭領に向けて深々と(こうべ)を垂れた。それを見た草之助も頭領に向き直る。

「鵺に関しましては私が……。どうぞご容赦下さいますよう、お願い申し上げます」

「頭領……」

 島村に頭を押さえられていた鵺が、その腕力に抗うように顔を上げた。

「あの者を拷問にかけるべきと、もしも頭領がそうお考えであるならば、その役目を私にお任せ下さい」

 傍らから高笑いが聞こえる。

「お前がやるだと? お前のような腑抜けに、拷問なんぞできるものか」

 島村は、より一層の力を込めて小次郎の頭を床に押しつけた。

「あの者を里に連れてきたは私です。私が適任かと存じます」

「よかろう」

 頭領は、その場に居合わせた者らの表情を見回したのちに言う。

「鵺、お前に任せる」

「は、承知致しました」

 こうして、はつの処遇が決定されたのであった。

話し合いの結果、はつを拷問にかけることに。

鵺とは、敵なのか、それとも味方なのか。

拷問に臨む鵺。はつの運命はいかに……。

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