表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/83

71

「淀水ちゃんの言いたいことは大体分かった。俺にそこまで打ち明けるのはさぞかし辛かったじゃろう。しかしの、もし俺が引き受けなんだらどうするんじゃ? 淀水ちゃんはあの増井とやらを許す気はないんじゃろ?」

「それは……」

 豊は魚沼の手を握り返した。

「いや、つまらんことを聞いた。みなまで言わんでええ。どうせ俺が逃げたら、淀水ちゃんがやるしかなくなるからの。遅かれ早かれ、淀水ちゃんはそれをする気なんじゃろう?」

 魚沼は俯いたまま、力なく頷いた。

「もうひとつ、聞かせてくれ。淀水ちゃんが俺に弟子にしてくれ、言うたのは、最初からこれが目的じゃったんか? これのために、俺に近付いたんじゃろうか」

 魚沼はしばらく無言だった。そして長い逡巡の後、

「……分かりません」

 今度は首を振り、悲しい声ですすり泣き始めた。

 狭く、殺風景な魚沼の部屋に、魚沼の押し殺した泣き声だけが響く。豊は魚沼の肩を抱き、魚沼は豊の胸に顔をうずめた。

 それからどれほどの時が流れたのか、魚沼は泣き止み、豊は魚沼の肩に手を置いた。

「淀水……お前の気持ちはよう分かった。果たして俺がお前の期待に添える男かは俺にも分からん。だからこの金と、この話は一旦、俺が預かる。もし引き受けるとなれば失敗は許されん。俺も覚悟を決める時間がいるし、周到に準備する必要もある。じゃから、お願いじゃ。俺を信じて欲しい。俺は淀水を絶対に裏切らんし、他言もせん。時間はかかるかもしれん。その間に、もしお前がひょんな気でも起したら全部ぶち壊しじゃ。分かるな? 淀水には、俺を信じて待っていて欲しいんじゃ。このことをサツにタレ込むような真似は決してせんと約束する」

 魚沼はしばらく考えていたようだったが、

「……はい。私は、なにがあっても、豊さんを信じて待っています。豊さんが逃げたとしても、信じて待ち続けます」

「それでええ。今日は呼んでくれてありがとうな。淀水の素顔が見れて少し嬉しかったぞ。じゃが、淀水はやっぱり笑うとる方がかわええよ。次に会う時は、お前のとびきりの笑顔を見せてくれやの」

 豊は立ち上がり、玄関に向かう。魚沼も見送りに立とうとしたが、それを豊は制した。

「今日はもう疲れたろう。ゆっくりするとええ。今日はぐっすり寝て、疲れをとるんじゃ。明日からは、いつもとは変わらんが、きっとほんの少しだけ、明るい人生が始まるはずじゃ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ