70
「私は、私にやられたことをやり返したい。かけがえのない子供がいなくなる。それがどういうことなのか、あいつらに思い知らせてやりたい。豊さんなら、できるんです。豊さんは高齢者で、車に乗ってます。だから事故に見せかけて、こいつを除くことができるんです。簡単です。豊さんの車はもうすぐ車検でしょう? だから、大抵代車はオートマのはずです。そこで事故に見せかけて、アクセルとブレーキを間違えたと言えば済むんです。もちろん、交通刑務所に入ることになるだろうし、その後も不自由な生活を強いられることになります。でも、殺人罪に問われることはありません。少なくとも、半年後には社会に復帰できるんです。もちろん、豊さんに多大な負担をかけてしまうのは分かってます。だからそのときは私が一生かけて償います。私が豊さんをお世話します。私の方が豊さんより先に死ぬ可能性は低いだろうから、豊さんの残りの人生をお世話させていただきます。私にできるのはそれくらいしかありませんから」
魚沼は一気にまくし立てた。言葉の終わりには嗚咽が混じっていた。
「社会の常識から外れているのは私にだって分かってます。許されることでもないって分かってます。でも、こうでもしないと、私は私の人生を取り戻せないんです。あいつに奪われたままの私の過去を、私は取り返せないんです。ただの我が儘なんです。ですから、豊さんが私の我が儘に付き合う必要もありません。やりたくなければやらなくて結構です。私に人を見る目がなかった。ただそれだけのことです」
魚沼は豊の手を握ったまま、泣きながら訴えた。
確かに、豊のタプリはもうすぐ車検だ。魚沼は豊を足代わりにしつつ、それを確認していたのだろうか。そういえば、タプリがミッションであることにも魚沼は関心を示していた。突然思いついたというより、以前から計画として頭にあったのではないか。そこへたまたま条件に合致する自分が現れた。それまでは漠然とした計画が一気に現実味を帯び、燻っていた魚沼の復讐心と狂気に火がついたのではあるまいか。ではこの金は豊に殺人を依頼する依頼料といったところか。だが魚沼は引き受けなくてもいいと言う。その場合は手切れ金および口止め料という意味合いなのだろう。自分がこのことを他言すれば魚沼は身の破滅だ。魚沼はそこまで自分を見込んだ、というより、復讐の情念が勝ったと考えた方が妥当だろう。それでも、魚沼が信頼を寄せてくれた事実に変わりはない。
もしも自分がありふれた、世間一般に言うところの常識人であれば、魚沼はこんなことを頼まなかっただろう。魚沼は豊と、自分の人を見る目にすべてを賭けて、自分の人生を捧げたのだ。それは豊にとっては、男としてどうしても応えてやりたい賭けだった。だが、豊には気になることがあった。




