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店に入ってすぐ雑誌コーナーに向かう。もちろん新聞などは買わない。新聞は政府に阿諛追従しているので愚民の読むものだと考えている。

 豊は週刊誌としては硬派な部類に入る週刊清流を手に取る。自分は決して女子の裸体を拝みたいオヤジではないというアピールでもある。社会情勢の一端を知るため、仕方なしに週刊誌という低俗なものに目を通すのだ、と。

 現職議員の政治資金規制法違反や現政権が掲げる法案に警鐘を鳴らす記事に目を通す。やはりろくなものではないと溜息をつく。今の政権を豊はまったく評価していないが、世論調査によると支持率は五十パーセント前後らしい。理解できない。テレビしか見ない大衆は本質を見抜く能力を欠くのだろう。記事の内容も豊の考えと概ね同じで、少し溜飲が下がった。

 週刊誌を本棚に戻しトイレに向かう。節約のため、外出したときはなるべくよそのトイレを使うことにしている。用が済んだら店内をひと回り。レジに立つ三十前後と思しい女子店員に声をかけてみる。

「今日も客の入りが少ないのう」

 が、店員は愛想と分かる笑みを浮かべて軽く会釈するだけだった。自分としては言葉のキャッチボールをしたかったのに、門前払いをされたようで納得できない。田舎の商店は接客などいいかげんなものなのだろうと思う。近くに競合店もないから殿様商売でやっていけるのだろうと。

 こんな客に冷たい店で買い物などもちろんしない。コンビは安売りで稼ぐ店ではない。わざわざコンビニの高い商品を買うつもりも毛頭ない。豊がスーパーの帰りに必ずコンビニに立ち寄るのは帰りの一服、立ち読み、トイレ。そしてこぎれいなイートインスペースだ。おしゃれだが、少々座り心地の悪い備え付けの椅子に腰掛け、テーブルに置いたリュックをまさぐる。今しがたスーパーで買った菓子パンとカフェオレを取り出す。

 ガラス越しに目の前を時折通り過ぎる車を眺めつつ、パンとカフェオレを交互に口に運ぶ。外は寒いだろうが、店内のスペースは暖かく、柔らかな日差しが心地いい。

 平日の昼前に、あくせく働く連中をこういう場所で眺めていると自分が偉くなった気分がするので、買い物帰りは必ずこの時間を満喫しているのだ。

 やがてパンも食べ終わったが、しばらくぼんやり外の風景を眺めていると、店内に流れる音楽の合間に午前の十一時を知らせるアナウンスが流れた。いい暇つぶしにはなったかなと豊が腰を上げる。テーブルに置いたパンの袋とカフェオレの紙パックを手に取る。ゴミくらい店員に処分させてもいいが、自分はマナーをわきまえた客であることを店員に印象付けておきたい。また、半額のシールが張られたパックを見られるのも少し恥ずかしかった。ゴミ箱にゴミを捨てかけたとき、何気なくカフェオレの紙パックの底を確認してみた。すると豊は一瞬、思考が停止した。

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