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「私は豊さんに言われたとおり、やられたことはやり返したい。あいつらのやったことは決して許せることじゃない。できないなんて言い訳なんかしたくない。泣き寝入りなんかしたくない」

 魚沼は一旦目を閉じ、ひとつ息を吐いた。

「だから、私は豊さんにお願いするんです。なにも言わずにこのお金を受け取って下さい。私のお願いを聞くのは、もちろん豊さんの自由です。気に入らなければなにもしなくていいんです。その時は、そのお金を持って、二度と私に関わらないでください」

 魚沼はなにをお願いしたいというのだろうか。薄々感づいてはいるのだが、とてもその予想を掘り下げる気にはなれない。魚沼は再び立ち上がり、部屋の隅の箪笥の小物入れを探り始めた。しばらくして目当ての物が見つかったらしく、魚沼はそれを手にして豊の傍に座った。

「これをお渡ししておきます」

 魚沼が飯台に置いたのは一枚の写真だった。年の頃は五、六歳くらいの男の子が写っている。だが、その写真は物陰から隠し撮りでもしたようなアングルだった。

「あいつは私の赤ちゃんを三人も殺した。それだけじゃ飽き足らず、私を赤ちゃんの産めない体にした。あいつは、これから生まれるはずだった赤ちゃんまで、永遠に殺し続けるんです。それなのに、この国の法律はあいつを裁くこともできない。生まれていない命は命じゃないなんて屁理屈が罷り通ってる。だから私がやるんです。私がやる他ないんです。私の赤ちゃんが何人も殺されてるのに、あいつのガキが普通に生きて、なんの罰も受けないなんて、そんな理不尽、私は許せません。だから私がやるしかないんです」

 写真の少年は増井の子供であることは疑いようがない。魚沼が何をやろうとしているのかは、もう明白だった。

「今年の春、小学校に上がるそうです。殺人者の息子が、なに不自由ない生活を送って成長してる。こんなことがあっていいんですか? あいつの息子ですよ? あいつと同じ遺伝子を持って、あいつと大差ない小悪党に成長するんですよ? そしてその陰で、私みたいな境遇の女が何人も犠牲になって、私の赤ちゃんのように、何人も、何十人も、何百人も殺されるんです。そんなことはさせません。これから何人も殺す殺人者をこのまま放っておけば、大変なことになってしまうんです」

 魚沼は豊の手を取った。その豊の手には、さっきの茶封筒が握り締められたままだ。

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