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洗面所に行き、自分の顔を見てさすがにぎょっとした。髭は伸び放題に伸び、髭面といって差し支えない。髪もみっともなく伸び、落ち武者のようだ。はやる心を抑えてシャワーで数週間の垢を落とし、髭も剃り、後頭部の髪ははさみで切り落とした。以前買った消臭剤をふりかけ、とりあえず身だしなみを整えるとタプリに乗り込むべく外に出る。すでに午後の七時を回り、辺りも暗くなっていた。が、豊は構わずエンジンをかける。気は急いていたが、事故を起さぬよう運転には細心の注意を払った。

 やがていつものスーパーも通り過ぎ、以前きた魚沼が住んでいるという公営住宅の駐車場に入った。すると入り口に立つ一人の人影。暗がりでもその服装から魚沼であることは一目瞭然だった。電話があってから一時間は経っている。その間、ずっと待っていたのだろうか。

 適当に空いたスペースにタプリを停め、豊は魚沼の元へ歩み寄る。

「久しぶりじゃのう。正直、もう二度と会うことはないと思うとったんぞ」

「本当に、ごめんなさい。あんな偉そうなこと言って、またこうして豊さんを頼っちゃう。私って、やっぱり駄目な女ですね」

「いや、謝らんでもええ。恥ずかしいが、俺も淀水ちゃんに会えんと思うと寂しゅうて、ここしばらくずっと塞ぎこんどった。でも、淀水ちゃんが電話してくれたときは嬉しかったぞ」

 だが、魚沼は儚げに微笑んだだけでそれには応えず、

「ここで立ち話もなんですから、私の部屋に来てください。こちらです」

 魚沼はさっさと踵を返した。やはり他人行儀な魚沼の態度に困惑してしまう。魚沼に導かれるまま、一番端の六番棟に入り、中央部に設けられた階段を登る。階段は結構きつく豊には辛いものがあったが、幸い二階の廊下に入る。魚沼の部屋は端の方にあるらしい。

 すると豊はまた既視感を覚えた。この集合住宅の造りはどこかで見た。以前、ここへ魚沼の部屋を暴こうと来た際にも感じたものだ。その時は分からなかった。だが、今回ははっきりと思い出した。いや、正確には前を歩く魚沼の後姿がトリガーになった。

 そう、この集合住宅はあの夢に見た地下水路にどことなく似ていた。あの夢では魚沼は武装組織の一員で、豊はその組織に訳も分からず協力させられていた。あの夢はこれを暗示していたのだろうか。馬鹿馬鹿しい。集合住宅などどこも似た造りだ。それがたまたま想像力の乏しい自分の夢に、地下水路のイメージとなって出てきたのだろう。豊は俄かに湧いた恐怖から目を逸らす形で、生じた疑念に蓋をした。

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