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「それじゃあ、積もる話もあろうから、とにかく上がってくれ」

「おじゃましまーす」

 が、ここにきて豊は重大なことに気付いた。散らかり放題の部屋。起きた時のままの万年床。満載のゴミ箱に灰皿。言い訳のきかない、部屋に染み付いたタバコの臭い。まず魚沼を外に待たせて片付けをするべきだったか。それでも染み付いた臭いはどうにもならない。魚沼は右手を口元に添えている。もう豊は観念するほかなかった。

「あ、ああ。今まで内緒にしとったが、実は俺はスモーカーなんじゃ。いや、決して騙しとったわけじゃない。言い出す機会がなかったんじゃ。淀水ちゃんはタバコなんぞ吸わんじゃろう。だからなんというか、俺なりに気を遣うたつもりだったんじゃ」

「ええ。まあ、なんとなく気付いてましたから。さすがに、男やもめって感じの散らかりようですね」

「え? 気付いとったんか? それで知らんぷりしとったんか?」

「私、結構そういうのに気付いちゃうんですよね。でも気付かないフリしてばかりいるから、扱いやすいって思われちゃうんでしょうね。そういうのも分かっちゃうんです。いいんです。私、そのとおりの便利な女ですから」

 豊には返す言葉もない。事実、魚沼に対してそんな風に思っていた。トロそうだから騙しおおせる。よしんばバレたとしても、さほど怖いことはありはすまい、と。

「豊さんの年代でタバコを吸わない男の人なんてほとんどいませんしね。前に付き合ってた彼もタバコ吸ってましたし。私は嫌いだけど。でも、嫌われたくないから、嫌いとは言いませんけどね」

 その彼とは増井のことなのだろうか。恐らく、魚沼は暗にそう言いたいのだろうと思った。

「それに、部屋が散らかってるのもそんなに気になりません。私の部屋も似たようなものですから。これくらい散らかってた方が、かえって落ち着きます」

 魚沼は微かな笑みを浮かべて、事務的な口調で喋ったが、目は全く笑っていない。やはり豊は魚沼との微妙な距離を感じずにはいられなかった。

 散らかっていた居間を申し訳程度に片付け、魚沼を座らせると豊はコーヒーを入れるべく湯を沸かした。が、インスタントコーヒーはハテ、どこだったかなと探し回ったが見つからず、仕方なくいつ買ったか分からないティーパックで紅茶を出す羽目になった。


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