52
フードコートは昼過ぎということもあり、それなりに客が入っている。が、空席がないほどでもない。テーブルと椅子が並べられた広い空間を取り囲むように、さまざまなジャンルの店が軒を連ねている。ラーメン、丼、お好み焼き、アイスクリーム。他にもさまざまな店がある。魚沼はさっさと空いている席につき、豊もそれに倣う。
「それじゃあ、なににしましょうか?」
そう言われても、豊にはどれを選べばいいのかすぐには思いつかない。周囲はやはりといおうか、若いカップルや子供連ればかりだ。ここも少し居心地が悪い。
とりあえず目に付いたうどんをチョイス。魚沼はイタリアンを選ぶ。ここもセルフ方式なので豊は魚沼に教えられつつうどんを買う羽目になった。
「私、本当はここにはあまり来たくなかったんです」
魚沼が髪を押さえつつ、パスタをフォークに絡めながら言った。
「うん? やっぱり、一階にあるレストランの方がよかったか?」
「いえ、そういうことじゃなくて、このショッピングモール自体が、です。ここ、やっぱり家族連れが多いじゃないですか。中には私よりずっと若いのに、赤ちゃんを連れてる幸せそうな女性もたくさんいますよね。役所や消防署とかも近いから、公務員や、その奥さんとかも多そうですしね」
その言葉には同感だった。自分と同じ居心地の悪さを魚沼も抱いていたということか。魚沼が言うには、こういう場所ではあまり働きたくないということだった。
「俺もこういう場所はあんまり好かん。世間の連中はこんなところで遊び呆けてばかりで、この国の行く末に全く関心がない。さっき淀水ちゃんが面接をしとった店を俺も見たが、ええ歳をした若いもんが真剣な顔で服なんぞを選びよる。ああいう店に入る男なんぞ、俺に言わせれば下らん連中じゃ。ああいうのに限ってチャラチャラ遊びまわって、オナゴを泣かせよるんじゃ。そういう男を相手にするオナゴも見る目がない。淀水ちゃんは知っとるか? いま日本では幼児の虐待やら育児放棄が問題になっとる。そういう事件は大方、ああいう店で服を買う男と、そんな男と付き合う馬鹿なオナゴがやらかしよるんじゃろう」
最初は魚沼と客が恋仲にならないよう牽制しているつもりだったが、喋っているうちに興奮してきて、普段から溜まっている不満、鬱憤を吐き出し始めた。以前魚沼と会った時にした話と同じ内容のものだったり、喋っているうちに何度も同じ話を繰り返したりもしたが、豊は気付かない。魚沼は最初呆気にとられていたようだったが、やがてニコニコと頷きながら意見することなく最後まで聞いてくれた。豊が喋り終わった頃にはフードコートの客もまばらになっていた。
夢中で話し込んでいた豊だったが、さすがにはっとした。また話がくどくなってしまった。話に夢中で、いつの間にか昼下がりになっていた。だが、目の前の魚沼はニコニコして、さほど不機嫌な様子はない。恐らく自分の話に引き込まれていたのだろうと、胸を撫で下ろす。どうせ魚沼も無職なのだ。時間を持て余しているに違いない。自分の話に耳を傾けた方が魚沼も有意義だと考えているのだろうと、自身を安心させる。
「さて、飯も食い終わったし、そろそろ出ようか」
豊が立ち上がり、出口に足を向けたが、魚沼はまだ後ろでなにかをしていた。振り向くと自分と、豊の分の食器を下げていた。なぜそんなことをするのか、しばらく分からなかったが片付けもセルフなのだとなんとなく気付いた。食器を下げ終わった魚沼が足早に戻ってきた。
「お待たせしました。じゃあ、行きましょうか」
「おお、俺の分の食器も片付けてくれとったんか。淀水ちゃんは気が利くオナゴじゃのう」
さりげなくおだてておけば魚沼も気分がいいに違いあるまい。そう思った。
「豊さん、折角ここまできたんだし、ちょっと二階の方を見て回りましょうよ」
「二階か。なんの店があったかのう」
とぼけて見せたが、ファッションフロアになっていることは薄々知っている。いよいよ服の一着でもねだられるのだろうかと身構えた。




