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魚沼が面接に行ってから十五分ほど経過。そろそろ出てくる頃だと思い、衣料品店を見やる。二人ほどの従業員が接客したり品出しをしている。今流行りの店らしく、客層は若い男女が中心だ。品揃えも若者向けの服が多いように見受けられる。魚沼がここで働くことになったとしても、やはり自分はここに買い物にくることはないな、と思う。魚沼が面接で落とされるのを願わずにはおれない。
コーヒーを飲み終えた頃に魚沼が出てきた。豊の存在を休憩所に認めると軽く手を振った。
「お待たせしました。結構、待ったでしょ?」
「いや、そうでもないぞ。時間がかかった方が採用の目があるということじゃろ。なんなら一時間でも、二時間でも待ってやるわい」
などと、心にもないことを言ってみる。
「そんなに長いこと、話すことなんてありませんよ。まあ、確かに好感触だったかな?」
「どんなことを聞かれたんじゃ?」
「最初は普通の面接のやりとりですね。でも、後半から勤務時間とか、シフトとか、かなり具体的な質問が来ました」
「じゃあ、もう採用は決まったようなもんじゃ」
言いながら、心の中では真逆の結果を期待している。
「えへへ。まだ分かんないですよ。当落は遅くても一週間後には、って言ってくれました。このあたり、大手はきちんとしてますよね。もっと早く受ければよかった」
「そうじゃのう。これは淀水ちゃんの採用の前祝いをせんといかんの」
魚沼が採用されれば会う機会が少なくなる恐れがある。それまでに少しでも距離を縮めておきたい。豊は焦っていた。
「前祝いはさすがに大袈裟ですけど、ここまで来たんだし、どこかでご飯にしましょう。できれば割り勘で」
「もちろんじゃとも。ここの三階が飯を食うとこじゃったな。俺も食ったことはないが」
「豊さん、フードコートって言うんですよ。安くて私達にはピッタリですけど、一階にはテナントで入ってるレストランとかもありますよ」
「いや、贅沢してもしょうがない。そのフードナントカの方が俺はいいな。淀水ちゃんさえ良ければ、じゃが」
「私もそっちの方がいいです。豊さんって庶民的だから、私みたいな貧乏人は助かります」
「貧乏はお互い様じゃ。それでも、俺は淀水ちゃんと一緒にいられたら、どれほど貧乏でも苦にならんぞ」
豊がおべっかを言うと、魚沼がコロコロと笑う。二人はフードコートに行くべく、エスカレーターに向かう。その途中、豊はもう一度衣料品店を見やった。二、三十代くらいの男の姿もある。魚沼が接客しているうち、客の男と恋仲になる可能性もなくはない。魚沼にしても、どうせ付き合うなら自分のような年寄りよりも、若くて定職に就いている男の方がいいに決まっている。
そんなどこぞの馬の骨に奪われるくらいなら、いっそ魚沼を殺して自分も死のう。現実にできるかどうかは分からないが、豊はそんな暗い情念を抱いた。




