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「いらっしゃいませーえ。おはようございまーす」

 店に入るとマニュアルどおりの挨拶が飛んでくる。自分が他の客と同列にされていることに不満を覚える。自分が今までどれだけこの店の売り上げに貢献したか知らないのかと。

 とりあえず店内を一周して回る。何かを探しているわけではない。店内に片付け忘れたポップや賞味期限切れの生鮮食品がないかチェックするのだ。自分はただの買い物客ではないという自負がある。店内のチェックは親切心からだ。が、特にこれといったミスは見当たらない。心の中で舌打ちする。

 次いでおつとめ品コーナーに向かう。が、半額のものは見当たらない。上から下まで引っ繰り返してみたがみな三十パーセント引きだ。賞味期限を確認し、半額になりそうな時期に当たりをつけておく。一週間後にくればスナック菓子が半額で買えるかもしれない。

 生鮮食品売り場を回る。店員がまだ品出しをしている。

「真面目にやりよるか?」

 豊が声をかけたが五十がらみの店員は目も合わせず、軽く会釈するだけだ。店員の教育が全くなっていないと憤慨する。自分が若い頃はガソリンスタンドの店員として朝から晩まで声を張り上げていたものだが、今は時代が違うらしい。自分の世代が一番損をしていると思えた。

 乳製品のコーナーに向かう。ここでも店員が緩慢な動きで商品を並べ直している。

「しゃんしゃんせえよ。男の子じゃろうが」

 男の子とは言ったがこちらの店員も四十半ばだ。ただの嫌味だ。が、店員は意に介する風もない。

「どうもー。ありがとうございますー」

 笑顔の返事が軽くあしらわれたようで癪に障った。

 牛乳を買うべく牛乳の陳列棚の前に立って腰をかがめる。いつも買う牛乳は最下段に並べられているので奥までチェックする必要がある。予想通り、最奥の手が入らない位置に新しいものがある。一人暮らしなので賞味期限は一日でも遠いもののほうがいい。仕方なしに手前の牛乳を何本か抜き取り、奥に手を突っ込む。ついでに後に続く客のために古いものを奥に押しやっておく。こうしておけば後の客も買いやすいし、店のイメージもアップして一石二鳥だ。気のきかない店員に代わってここまでしてやっている自分に感謝状の一枚もよこさないこの店も長くはあるまいと嘆息する。

 続いて菓子パン数個、安売りのビールパック、カップめん、ウインナー等々をカゴに詰め込む。暗算で五千円近い買い物はした。これで一週間は持たせたいが、五日がいいところだろう。レジに向かったがどのレジも並んでいる。待つのが嫌なのでもうひと回りしてみる。するとさっき買った牛乳の棚の上段。紙パックのカフェオレに半額のシールが貼ってあるのに気付いた。思わず足早に近付き手に取る。こういう掘り出し物に当たるとはラッキーだった。改めてレジに向かうといくらか空いていた。体重百キロはありそうな女子店員が打つレジで会計する。

 店員が品物を通す間、豊が手にしたバックを見せるように振る。

「マイバックを持ってきとるんぞ。袋はいらんけん割引せえや」

 もちろん割引されないことは知ってる。店員の対応のチェックとコミュニケーションがなっているかテストしているのだ。

「申し訳ございませえん。当店にはその割引のシステムはないんですー」

 その程度、自分の裁量でやれ、店員の意識が低いから朝から客がまばらなんだと言ってやりたかったが、たかがバイトの女子店員にそこまで言っても詮無かろうと我慢した。

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