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「あ、豊さん。こんばんは。メール、見てくれたんですね」

「おお、見せてもろうた。ただ淀水ちゃん、勘違いしとるようじゃが、俺も結構楽しかったんぞ。ああいう場所に普段行くことはないからええ勉強になったしの。車の臭いも、少し落ち着いた。これも淀水ちゃんのおかげじゃ」

「えへへ。そう言ってもらえると助かります。今、なにしてらっしゃるんですか?」

 こちらの動向を感づいているのかとどきりとしたが、そんなはずはあるまいと、とぼけることにする。

「今さっき起きたとこじゃ。家に帰った途端、眠うなっての。恥ずかしながら今まで昼寝しとったんじゃ。いや、もうすっかり暗うなっとるから、夕寝かの」

「晩御飯とかはどうしてるんですか?」

「あの後、スーパーに寄って惣菜を買うたから、それで済まそうと思うとる」

「あまりお勧めできませんね。食事が偏っちゃう典型的な独身男性の食生活じゃないですか」

「ははは。耳が痛い。どうせもう、長うない人生じゃけん、飯くらい好きなものを食べさせてくれや」

「駄目ですよ。豊さんに何かあったら、私が悲しいんですから。今度、豊さんの家にご飯を持って……いや、おうちが遠いから無理なのか。くれぐれも、バランスの取れた食事を心掛けて下さいね……もしもし? 豊さん? おーい」

 豊は何も喋れなかった。自分が死んで悲しむ者など、もういないと思っていた。だが、魚沼は悲しいと言ってくれた。その言葉を聞いたとき、目に涙が溢れ、喉が詰まり、言葉を発することができなかった。

「豊さん、どうしちゃったんですか? 急に黙り込んじゃって」

 両目をこすり、息を整え、努めていつもと変わらぬ声を出す。

「いや、なんでもないぞ。そうじゃのう。これからは少し健康にも気を付けることにするか。俺も淀水ちゃんに会えんなるのは寂しいからの」

「すみません。生意気なこと言っちゃって。でも私も豊さんには長生きしてもらいたいですから」

 それから少しやりとりをして電話を切った。豊は運転席からアパートを見上げる。これではまるでストーカーではないか。自分は一体、なんのためにここに来たのか。急に後ろめたくなった。

 豊はエンジンをかけ、帰路に着いた。もう魚沼の自宅を暴こうとは思わない。いつか魚沼が招いてくれたとき、知ることができればそれでいい。魚沼の自分に対する、純粋な気持ちを裏切ることはしたくなかった。

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