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タプリの中でタバコを何本か吸い、スーパーの駐車場も空きが目立つようになってきた頃には、すっかり暗くなっていた。交通量も大分減り、豊は意を決してエンジン点火。気持ち目立たぬよう、駐車場を出る。ウインカーは自宅とは反対方向。つまり、魚沼が住むという公営住宅の方向に出した。
豊が知る公営住宅は車で五分か三分ほどの場所にあるはず。だが、実際に走ってみると二分もかからなかった。魚沼が徒歩で買い物に来るくらいだから、それぐらいの距離なのは当然とも言える。公営住宅の古ぼけた壁面が見えてきた。
幸い駐車場は広く、難なく駐車スペースは見つかった。タプリを降り、タバコに火をつける。公営住宅は六棟の建物からなっており、三階建てだった。壁はかなり汚れており、築三十年から四十年というところか。実に魚沼にピッタリの物件と思えた。
豊は少し歩いて建物を窺う。電気のついている部屋は半々だ。入居者がいないのか、ただの留守かは判然としないが、入居者自体が少ないように思えた。
このアパートのどこかに魚沼の一室があるはずだ。まず見つかるわけがないとは思ったが、一番近い一番棟の一階に入ってみた。一軒ずつ玄関のドアを確認。すると、ほとんどの部屋に表札が掛けられていないことが分かった。
どうやら個人情報を殊更重要視する、最近の風潮のせいらしい。昔はどんな家でも表札を掛け、住人の素性が知れていたものだが、世知辛い世の中になったものだと嘆息する。その間、仕事帰りと思しき人影と行き当たったが、その都度豊は身を隠し、目撃されないよう心掛けた。不審者と思われては面倒である。
仕方なく駐車場に戻る。だが、妙な既視感を覚えた。ここの構造はどこかで見た。似た建造物を知っている。だが思い出せない。もっとも、こういう集合住宅はどこも似たり寄ったりの造りだ。どこかで見たアパートと記憶が混同したのだろうと、深くは考えなかった。
豊は振り返り、またアパートを見上げた。夜なのでその佇まいは不気味だったが、このどこかに魚沼が住んでいると思うと、豊は意味もなく焦りを覚えた。この建物のどこかで魚沼が寝起きしている。着替えをし、入浴し、食事をしている。そう思うと、今すぐ魚沼を訪ねたかった。
その時、豊のズボンのポケットに振動が起こった。何事かと一瞬驚いたが、携帯が着信を知らせたのだとすぐに気付いた。慌てて携帯を取り出し、開く。
「今日はありがとうございました」
メールのタイトルにそう、表示されていた。魚沼からなのは疑いようがない。豊にメールする者など魚沼しかいないからだ。自分の存在に気付いたのだろうか。恐る恐るメールを開いた。
「こんばんは! 今、晩御飯を終えたところです。今日は豊さんのおかげで面接までいけたし、とっても楽しかったし、充実した一日でした。でも豊さんにはいい迷惑だったかな?
面接の日はもう少し豊さんが退屈しないよう、きちんとプランを練っておきますね。では、明後日を楽しみにしております」
メールにはそう、書かれてあった。カラフルな絵が動いて画面を彩っている。いつもはメールが届いたら豊が折り返し電話を掛けていた。魚沼の住まいの目と鼻の先で電話するのはためらわれたが、無視することもできない。最近は電話のやりとりで返信がなかっただけで殺人事件に発展した事例もある。そのニュースを見たときは愚かな人間もいるものだと思ったが、その気持ちが少し、理解できた。自分ももし魚沼から電話を無視されたらと思うと、怖気が走る。
豊はタプリに乗り込み、通話ボタンを押した。




