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あっという間に牛丼屋に到着し、魚沼と二人、奥のテーブル席に座る。周囲の目も、心配したほど注がれることもなかった。仲のいい親子くらいにしか見えないのかもしれない。
二人して同じメニューを注文。
「ウニむらって、ブラックって噂もあるから、今まで敬遠してたんですよ。でも今回、やっと面接まで行けたから、そんなことも言ってられないですね。実際、入ってみたらただの噂ってこともあるでしょうし」
「社員を酷使するだけの会社なら、辞めればええ。殺されるまでおかしげな会社で働く必要はない」
「そうなんですけど、大抵の人は仕事を失うのが怖いですからね。無職になったら、ほぼほぼ正社員になれることはありませんし、また収入ゼロからアルバイトやパート探しをしなくちゃなりませんから。まあ、最近はそのバイトやパートで潰されちゃう事例もあるみたいですけど。ホント、世も末って感じです」
「政府が悪いんじゃ。政治屋共が国民の税金や年金で私服を肥やすことばかしに血道をあげ……」
そこまで言って言いよどんだ。まるであの夢に出てきたリーダーの演説そのままではないか。慌てて話題を変える。
「そういえば、そのウニむらはバイトから社員に登用する制度はあるんか?」
「ないこともないみたいです。でも接客業から正社員になるのって、すごく大変な気がします。まあ、採用されてないうちからこんな心配しても仕方ないんですけど」
「じゃあ、淀水ちゃんがめでたく採用されたら、俺もちょくちょく買い物に行くか。それで淀水ちゃんの成績に繋がるかは分からんが」
「喜んで接客させていただきますよ。あ、豊さんのコーデなら、私に任せてくださいね」
魚沼の服装を見る限り、とてもまともなファッションセンスがあるとは思えないが、適当に笑ってごまかした。
定食も食べ終わり、心配していた美人局などなく、魚沼もついにスマホを操作することはなかった。それどころかずっと豊と他愛ないおしゃべりをした。遅めの昼食を終え、いよいよお別れの時間となった。ここにきて豊は少し考え込んだ。魚沼は家が近いので歩いて帰るという。豊は送るべきか、見送るべきか迷った。自宅まで送ると言うと、魚沼は警戒してしまわないだろうか。逆に送らなければ無粋な男と思われはすまいか、と。
「じゃあ豊さん、今日は色々と本当にありがとうございました。結果が出たら一番に報告しますね」
魚沼は深々と頭を下げた。家まで送って欲しいという申し出を期待したが、それはなかった。豊は名残惜しくて仕方がない。そんな豊の心中など気付く風もなく、魚沼が背を向けた。いいではないか。どうせ電話番号は分かっている。焦る必要などない。また次の機会に望みを繋げばいい。豊は自分にそう言い聞かせた。言い聞かせたが、不意に漠然とした不安が豊を襲った。次の機会とはいつだ? 自分に残された時間は後どれくらいだ? 明日、急病に倒れないという保証はあるのか? 本当に、また会えるのか?
「ああ、淀水ちゃんや」
去り行く魚沼の背に、豊は後先考えず、つい声をかけてしまった。




