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二人で安定所の駐車場に戻る。豊は魚沼の行動に注意を払っていたが、スマホをいじるようなそぶりもない。そういえば、豊と話しているときもほとんどスマホを見ない。今時の若者にしては珍しいのではないか。今まで気付かなかったが。
二人でタプリに乗り込み、牛丼屋を目指す。
「豊さんの車って、ギア付きなんですね。今時珍しいですね」
ギア付き? と、豊はしばらくなんのことなのか分からなかったが、トランスミッションのことだと気が付いた。
「ああ、ミッションのことか。そうじゃのう。今時はオートマばかりになってしもうて、昔からこればかりの俺には寂しい限りじゃ」
などと通ぶったが、ミッションを選択したのは値段が安かったからだ。妻はオートマを希望したが、どうせ妻が使うものだ。じゃあ代金は全額自腹で負担しろと言って妻を納得させた。
「なんか、ギアを操作するところってかっこいいですよね。私も教習所に行ったときはオートマ限定だったけど、それでも何度も落っこちて、途中でやめちゃいました」
「乗らんで済むなら車なんぞ乗らんでええ。維持費ばかりかかるし、事故でもやったら大事じゃ。俺みたいな運転が好きな変人なら別じゃがの。淀水ちゃん、知っとるか? バスやタクシー使うたらその時は金がかかるようじゃが、車代や維持費やガソリン代やらを考えたら、そんなに値段は変わらんのぞ」
「すごい! 私、今までそんな風に考えたことありませんでした。豊さんには教えられてばっかりです」
魚沼に感心されて豊も気分がよくなる。それにしてもこの話題、ソースはハテ、どこだったかなと記憶を辿ったが、思い出せなかった。
「そういえば、淀水ちゃんはあんまり携帯をいじらんのう」
それとなく聞いてみると、魚沼が苦笑した。
「えへへ。私、友達がほとんどいませんから。仕事もしてないから、そういう連絡も入りませんしね」
「しかし、最近は歩きながらでも携帯をいじって、事故まで起こるケースもあるぞ。ああいう連中はなにを話しよるんじゃろう」
「ああ、それは多分ラインとか、動画を見てるんだと思います。私はネット契約なんてできる身分じゃないし、ライン交換するほど若くもないですから、スマホなんて就活と時間の確認にしか使わないです。やっと最近、豊さんとメールで活用できるようになったぐらいですから。こうして一緒にいればその必要もありませんしね」
そのライン、動画とやらも豊にはピンとこないが、魚沼の言葉を信じるなら、現在の魚沼に友人と呼べるものは恐らく豊一人くらいしかいないということか。探りを入れたつもりが、ますます脈ありという可能性が出てきた。




