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 地下水路のような薄暗い通路を魚沼と二人で歩く。前を歩く魚沼はいつもの浮いた服装ではなく、全身黒のボンテージタイプのスーツを着込んでいる。ハリウッド映画でアクション女優がよく着るものだ。その魚沼もアクション女優よろしく、モデルのような歩き方で、閉鎖的な空間にかつん、かつんと足音を立てる。豊はわけも分からず、後ろをついてゆくだけだ。しばらく歩くとコンクリ壁が現れ、通路はそこで行き止まりだった。だが、魚沼はそこで振り返った。今まで見たことのない、険しい顔をしている。

「ここよ。豊さん」

 魚沼が体をよけると、そこには分厚い鉄のドアがある。恐る恐るドアノブに手を掛ける。ギギ、という、錆びついた音がした。中に入る。魚沼も後に続き、入室するとドアを閉め、施錠する音が聞こえた。

 室内に入るとキャンプ用の蛍光ランタンの青白い光が、魚沼と同じような服装をした男達、十数人を照らしていた。が、その連中は皆、顔を覆面で覆うか、フルフェイスのヘルメットを被っていたりで窺い知れない。体型で男と分かるのみだ。その中心にいた男が前に出て、魚沼に声をかける。

「この男か?」

「ええ。以前話した河村さん。私達の協力者」

「よし。いよいよ計画の最終段階だ。ついてこい」

 男に促されるまま、魚沼とさらに奥の通路を歩き、また別の部屋に入ると、大口径の銃火器が立てかけられており、そのうちのひとつを豊に持たせた。そのまま豊は同じく武装した、黒ずくめの男達の最後尾に並ぶ。そこは体育館くらいの大きな空間で、男達は縦列隊形で立っている。百人くらいはいるのだろうか。

 やがてさっきの男が、とはいえ、顔が分からないので判然としないが、リーダーらしき男が壇上に立った。

「諸君! 開放の時が来た。いよいよ我等がこの国を正しく導くのである。諸君らは今まで何度も耳にした。そして失望してきた。為政者が無自覚に発する、改革という言葉に。為政者の交代なくして決して実現することのない、建前だけの改革という言葉に。だが諸君。我等は何度も騙されるほど愚かではない! 我等市民を虐げ、搾取し、既得権を守ることのみに血道をあげ……」

 銃器を片手に、男は拳を振り上げ、意味不明な演説をぶっている。自分の言葉に酔っている風でさえある。周囲の男達も陶酔しきっているようだ。ふと、数列横の魚沼に目をやると、やはりうっとりした表情で壇上の男を見上げていた。

「……我等は十年近く、この日のために準備をしてきた。政府に去勢された国民を覚醒させ、真の国家を打ち立てるために。諸君の志あれば、決起は必ず成功する。この地下水路はすでに我等の拠点である。この直上にある国会議事堂を制圧し、国を腐敗させたる傀儡政治家を粛清し、真の独立国家の樹立を宣言するのみである。しかして……」

 一向に終わりそうもない長広舌を遮るように、トランシーバーの音が鳴った。

「大変です、代表! 国民治安隊が突入してきました。防衛線も突破され、本部に向かっています。計画は失敗です。すぐに脱出……」

 トランシーバーの声が途絶えた。その場の男達は皆、動揺している。

「諸君。どうやら我等の計画は露見していたらしい。だが聞け、諸君。我等はここで逃げ出すことは許されない。ここで退けば、我等の志を継ぐ者などいないであろう。我等は後進の道を拓くのだ。新たな芽を育む土となろう。そのために諸君。この拠点を枕に、喜んで討ち死にし、政府に一矢報いようではないか」

 リーダーが拳を突き上げると、男達は半狂乱の声を上げた。半ばヤケクソになっているようにしか見えないが、豊は冗談じゃないとその場から逃げ出すべく、腰をかがめて出口に向かう。

「貴様! 逃げるつもりか!」

 一人の男に見咎められ、大勢の男達に囲まれた。豊は手にした銃器を置き、両手を挙げて跪いたが、皆、その目は怒りに満ちている。豊は魚沼を探した。いた。だが魚沼はまるで汚い物でも見るような眼で、冷たく豊を見下ろしていた。

 豊はなるべく憐れで惨めな老人を装い、命乞いをした。こんな連中、なにをしでかすか分からない。傍に来たリーダーに一人の男が囁きかける。

「脱走者を発見しました。もしかすると政府のスパイかもしれません」

 皆が一斉にリーダーの判断に注目する。リーダーはしばらく顎に手を当て、顔を上げた。

「総括である」

 一斉に銃口が向けられた。豊は涙を流し、自分でも驚くほど情けない声を出して許しを請うた。が、それも虚しく、突きつけられた銃から、撃鉄を起すような音が聞こえた。

 同時に、どこかで炸裂音が響き、辺りが煙に包まれる。男達が恐慌をきたす。

「動くな! お前達は包囲されている。全員、銃器を捨て、手を頭の後ろに組んで座れ!抵抗するなら国家治安維持法に則り、全員射殺する!」

 スピーカー越しに聞こえる声。煙の中に交錯するライト。混乱する男達の声。助かったと思ったのも束の間、マシンガンを連射する音が鼓膜を打った。同時に煙の中、銃口から火が吹くのが次々と見えた。耳をつんざく轟音が辺りに響く。豊は両手で頭を覆い、膝立ちでその場を逃れようとする。すると突然視界に入った。応戦しながら、銃弾を浴びて倒れる魚沼の姿が。豊は大声で叫んだ。

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