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キーを回してエンジンをかける。あちこちぶつけたり擦ったりして、見た目は大分くたびれてはいるが大した故障もなく十年近く働いてもらっている。毎年の保険と二年に一度の車検さえなければ文句はないのだが。ついでにガソリン代も高齢者は優遇されるべきだと豊は考えている。若いというだけで仕事にありつける連中がガソリン代を負担するのは当然ではないか、と。
ミッションボックスとクラッチペダルを操作してタプリを路肩から道路へ出す。路肩駐車は違反だが皆がやっていることなのでさして気にしない。回覧板で禁止されている旨が告知されはするが、ではどこに停めればいいのかまでは明確にされていないので見なかったことにしている。
住宅地の狭い道路から広い県道に出ようとすると、早速、右から来た車が微妙な距離から速度を上げ、クラクションを鳴らした。
「くそ! 待ってやりよろうが!」
豊がハンドルを叩く。田舎町なのでひっきりなしに車が走っているということもないのに、なぜか自分が出ようとしたときに限ってマナーの悪い車に出くわす。クラクションを鳴らした車が眼前を通り過ぎ、続いて自分が県道に出る。だが、あんな車が走った後を自分が走るのがまた腹立たしい。すると今度は左の脇道から別の車が合流しようとしていたので、豊がプッとクラクションを鳴らす。今、自分がやられたことを別の誰かにやることで、少しは気が晴れた。
五分ほど走ると右手にコンビニが見えた。が、コンビニに寄るのは帰り道だ。そこは通り過ぎ、さらに十五分ほど走って目的地のスーパーマーケットに到着。この頃には九時半を回っているので開店後三十分といったところだ。駐車場が狭いので昼前には駐車スペースがなくなる。逆に早すぎると開店待ちの年寄りの行列とぶつかる。そんな暇を持て余している連中と一緒にされるのは豊のプライドが許さない。