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「そこで豊さんにお願いがあるんですけどお、職安に一緒に来てくれません?」
「職安に? 今からか?」
てっきりここでお別れかと思ったが、思いもかけない申し出に豊の鼓動が高鳴る。
「ええ。時間が経つとまたテンション下がっちゃうし、最近、職安ブルーなんですよね。でも豊さんが一緒にいてくれれば安心です」
豊に異論があろうはずもない。二つ返事で引き受けたい気分だが、とりあえず勿体をつける。
「それはええが、ここから職安いうたら、かれこれ一キロくらいはあるぞ。なんなら、俺の車で行くか?」
「ええ。実は今までバス代の節約のために徒歩で行ってたんですけど、豊さんに送ってもらえたらいいなあって」
魚沼はにっこり笑って舌を出した。
「なんじゃ。そしたら俺は白タクで雇われたんかい。しっかりしとるの」
豊が何気なく言った一言に、魚沼が小首を傾げた。
「……あの、シロタクって、なんです?」
しまったと思った。魚沼と話すときはなるべく世代の違いを見せないよう注意を払っていたつもりだったが、油断した途端、古い言葉を使ってしまった。
「あ、ああ。白タクいうのは、無免許でタクシー業をやる違法行為のことなんじゃ。ひと昔前に問題になっとったかのう。いやいや、俺は別に淀水ちゃんに足代を出せとか言わんから、安心してええよ」
つい弁解じみた口調になってしまった。もとより足代など頂かなくても下心があるので、それを隠したかった。
「へええー。そういうことがあるんだあ。豊さんって、社会問題にもお詳しいんですね。私ももっと勉強しなくちゃ」
意外にも魚沼は感心した様子だった。豊は落ち着くためにタバコを反射的に探したが、魚沼の前では非喫煙者のフリをしているので踏み止まった。
それからコーヒーショップを出て、スーパーの駐車場に向かう。豊がタプリのドアロックを解除し、魚沼とタイミングを合わせて座席に乗り込む。すると魚沼が眉間に皺を寄せた。




