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 コーヒーショップで電話番号の交換をして十日ほど経った。豊はあのスーパーの駐車場に立っている。春の陽気にはまだ遠いが、日中ならば日差しの暖かな日が訪れ始めた。

 あれから魚沼とは何度か電話でやりとりをした。豊はメールの仕方が分からないので、専ら魚沼がメールを送り、豊が電話で返すというやり方だった。魚沼からのメールは大抵、写真が添付されていた。それがないときも今時の若者らしく、絵文字が踊っていた。いつの頃からか豊は魚沼からのメールを心待ちにし、そしてついにまた会って話をしたいという連絡が入った。

 時間は朝の十時、例のスーパーの駐車場を待ち合わせの場所にして、豊は三十分も早くやってきて、なるべく目立たない場所で魚沼を待っている。早めに来たのはなにも待ちきれなかっただけではない。先に待っていることにより魚沼の来る方向が分かる。魚沼が言うように、公営住宅に住んでいるならその場所は大方見当がつく。疑うわけではなかったが、裏を取っておく必要があると思った。もっとも、他の場所に行ってから来ることも考えられるので、あくまで参考程度のつもりだ。そうこうするうちに左手の方角から魚沼がやってくるのが見えた。公営住宅のある方向と一致する。時間は待ち合わせの十分前。時間には几帳面らしい。

「あ、豊さん。おーい」

 豊を認めた魚沼が嬉しそうに手を振りながら小走りで駆け寄る。服装はやはりいつもの、不思議と言おうか、ちょっと浮世離れしたものだ。豊のすぐ傍まで来ると疲れたのか、その場で呼吸を整え始めた。

「はあ、はあ。豊さんって、男性なのに時間には厳しいんですね。私の方が早いと思ったのに、もう来てるんだもん。ごめんなさい。待ちました?」

「いや、謝らんでええよ。あんた……ああ、淀水ちゃんは時間より早う来たんじゃけん。俺はまあ、年寄りじゃから朝が早いし、特にすることもないからの」

「もう! また豊さん、自分をお年寄りみたいに言う。豊さんの悪い癖ですよ。全然お若いじゃないですか」

「そんなに若う見えるか? いくつくらいに見える?」

「うーん……六十、いや、五十台半ばくらいかな? あ、でも年金貰ってるってことは、六十は過ぎてるんですよね。でも、見た目はそれくらいですよ」

 お世辞にしても少し言いすぎだろうと思ったが、悪い気はしない。

「俺もそれぐらいなら淀水ちゃんを口説いたんじゃろうが、もう七十四、いや、五……いや、六、だったかな? もう数えるのも嫌になって、よう覚えとらんが、まあそんなもんじゃろ」

 魚沼が両手を口に当て、驚きの表情をする。

「ええー。そんなになるんですか? やっぱり男の人って、実年齢より若く見えちゃうんですね。羨ましいなあ」

「そういう淀水ちゃんはどうなんじゃ? 俺みたいな年寄りを相手にすることもないような歳じゃろう」

「あー。うら若き乙女にそういうこと、聞きます?」

「まあ、少し失礼な質問かもしれんが、どうせ二十台半ばじゃろ? 別に隠す必要もあるまい」

 これもお世辞だ。豊は魚沼の年齢を三十台はじめと予想している。どんな女でも歳より若く見られるのは嬉しいはずだ。魚沼は人差し指を口元に当て、

「えへへ。内緒です。でも、実年齢はもっと上ってことは、言っておきますね」

 やはり豊の予想したとおりらしい。別段意外でも、面白くもない答えだ。あるいは四十に近いとも考えられるが、それなら魚沼はかなりの若作りになる。どちらにせよ豊とは三十以上も離れているわけだから、さして気にならない。

「それで、今日の用件はなんじゃ? 電話では詳しく教えてくれなんだが」

「ええ。実はそんな大した用事でもないんです。あ、こんな言い方したら失礼かな。なんか豊さんを便利に使ってるみたいで」

「いや、別にええよ。俺らは茶飲み友達じゃけんの。上下のある関係じゃないんじゃから」

 などと言ったが、本心では大した用事がなくても、毎日でも呼んでほしいくらいだ。それではさすがにありがたみがなくなるので言いはしないが。

「実は一昨日、面接を受けてた工場から返事が来たんですど、不採用でした。それでまた落ち込んじゃって、豊さんに会えば元気が出るかなあって」

「そうか。それは気の毒したのう。俺なんかがそがいな話を聞いてもなんの役にも立たんが、まあ、淀水ちゃんを励ますくらいなら、努力するがの」

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