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「そういうことなら、こうしたらどうじゃろう。さすがに師匠、弟子では大袈裟じゃし、俺もそこまで期待されてはやりにくい。先生と呼ばれる趣味もないしの。じゃが、月に何度か会って、茶飲み話程度の付き合いなら、ナンボでもできるぞ。それとか、就職のアドバイスもできんことはないし、もし仕事が決まったら職場での悩みくらいは聞いてやれる。そういうことでどうじゃろうか」
「それで結構です。ぜひ、相談に乗ってやってください。ダメダメな私ですが、何卒よろしくお願いします!」
魚沼は思い切り頭を下げ、またもテーブルにおでこをぶつけ、今度は結構な音がした。
「おいおい、魚沼さんや、大丈夫か? ずいぶん大きな音がしたぞ」
「えへへ。大丈夫です。嬉しくってつい、ぶつけちゃいました。いてて……」
魚沼はおでこをさすりながら舌を出した。その仕草が豊にはとても愛らしく見えた。
その後二人は電話番号を交換し、魚沼が連絡を入れ、相談に乗ってほしいときに会う約束を取り決めた。その際、豊もいつでも会えるわけでもないぞと、勿体つけることも忘れなかった。そして二人分のコーヒー代は魚沼の境遇を考慮して割り勘にし、その日は別れ、豊は夢見心地のまま自宅に帰ったのだった。




