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「河村さんがあのスーパーで店員さんを怒鳴ってるのを見て、怖くて遠くから見てたんです。でも話の内容から、賞味期限の切れた商品を買わされたって知って、心の中で応援してたんですよ。頑張れって」

 魚沼はコーヒーをかき混ぜながら、豊を見知った経緯を話した。それを聞いた豊は不覚にも目頭が熱くなった。あのクレームは結局、自分の要求が通ることはなく、謝罪らしい謝罪もなく、商品の代金百円ちょっとが返ってきただけだった。あの時は徒労感しかなかったが、魚沼が見てくれていた。分かる人には分かってもらえた。やはり自分の行動は正しかった。無駄でもなかったと再認識した。魚沼がコーヒーをひと口飲む。

「ひどいですよね。スーパーがお客さんに賞味期限の切れたものを売るなんて。私だったら、ううん、ほとんどの人はそう思っても、なかなかお店に文句まで言いに行かないんだと思います。仕方ない、その商品を取った自分が悪いんだ、って。だから河村さんがそんな小さなことでも、うやむやにせずにきちんと言うべきことを主張して、間違いは間違いだって言ってるのを見て、胸がすく思いがしたんです」

「あ、ああ。そうじゃのお。俺は間違うたことを見過ごせん、損な性分じゃからのう」

 柄にもなく照れてしまい、お手ふきで豊は自分の顔を拭く。

「それから河村さんが店長さんらしい人と店の奥に行って、結局その後のことは分からずじまい。ずっとその出口の前で待ってたんですけど、河村さん、とうとう出てこなくって、仕方なくその日はアパートに帰ったんです」

 そういえばと、豊はあのまま店の裏手に連れて出られ、山野は代金を渡すと店内に戻ってしまい、自分もその場に居辛くなり、そこから直接駐車場に出たのを思い出した。

「で、私、部屋に戻ってもずっとそのことが気になってて、ずーっと河村さんがどんな話をしてたのか考えてたんですけど、当然分かりっこないから、これはもう本人に聞くしかないなって思って、お布団の中で決意したんです」

「そうじゃったんか。あんたがそんな一大決心をしとったとは露知らず、この前は邪険にして悪かったのお」

「いえ、いいんです。普通の人なら誰だって怪しいと思うのは分かってますから。それに今、こうして河村さんとお話できてるし」

 魚沼ははにかみながらまた舌を出した。舌を出して照れ隠しをするのは魚沼の癖なのだろうか。まあ、愛嬌があるので豊としては気にならない。

「で、改めてお聞きしたいんですけど、あれからお店の奥に行って、結局、どうなったんです?」

 魚沼は身を乗り出して聞いてきた。豊も聞かせたいことは山積みだった。

「おお、ひどいもんぞ。あんたは俺があれから店の事務所に案内されたと思うとろうが、とんでもない。店の裏手の、コンクリ塀で囲まれた、外の狭い場所で立ち話じゃ」

「なにそれ? 信じらんない」

 魚沼が納得できない顔で驚くので豊も興奮してしまった。それからとても謝罪と呼べる謝罪がなかったこと、店員の対応がなっていないこと、店がこの件を軽く扱ったことなど、わだかまっていたものを一気に吐き出した。喋っているうちに腹が立ってきて、政治や汚職事件の話題など、話が途中で何度か脱線したものの、魚沼は大きく頷いたり、耳を近付けたりして、熱心に豊の話に耳を傾け、最後まで豊の言葉を遮ることなく聞いてくれた。少し興奮して話が長くなったかとも思ったが、魚沼は感心しているようで、真剣になにかを考えているような表情でコーヒーを飲み干した。豊もつられてコーヒを口に含んだら、もうぬるくなっていた。

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