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「おお、魚沼さんや、見せてもろうたぞよ。あんた、ずいぶん料理が上手なんじゃのお。俺はびっくりしたぞよ」

「えへへ。ただのネットの真似ですよお。材料はほぼほぼ、出来合いの物を使って作ったなんちゃってフレンチですから」

「いやいや、謙遜せんでええ。もしかすると魚沼さん、どこぞの小粋なレストランにでも勤めるのが向いとるのかもしれんのお」

「あ、いいですね、それ。最近はパン屋さんで起業とか流行ってますもんね。でも、やっぱ無理っぽいです。私、調理師の免許とか持ってないし」

「いや、飲食店に勤めるだけなら誰でもできるんと違うか? 食品衛生士の資格かなんかがあったら、それで飲食店が経営できるとか聞いたことがあるぞ」

「すごーい。河村さんて、すっごく物知りなんですね。また今度、会ったときに色々教えて下さいね。なんだか、河村さんと話してるだけで元気が出てきちゃいました。あ、そうだ。さっき、ちょっと思ったんですけどお、私のこと、魚沼さんって呼ぶの、少し変じゃなくないですか?」

「ん? そうか?」

「変ですよ。だって、河村さんの方が年上なわけですし」

 年上と言われてどきりとした。もしかして、魚沼は自分を異性として見ているのではないか。そうでなければ、年配とか、お年を召されて、などという言い回しをするのではないか、と。だが、気の回しすぎかと、すぐに思い直した。

「それに私、苗字で呼ばれるの、好きじゃないんです。学生の頃、よく魚沼産って、からかわれてましたから」

「ああ、そうなんか。それじゃあ、淀水……ちゃんで、ええかの?」

「ぷぷぷー。淀水ちゃんだってー。恥ずかしいなあ」

「そ、そうか? すまん。じゃあ、やっぱり、普通にさん付けでええか?」

「やーだー。絶対、淀水ちゃんの方がいいー」

 一体どっちなんだと豊は困惑したが、魚沼が電話では別人のように馴れ馴れしくしてくるのが少し意外であり、嬉しくもあった。

「じゃあじゃあ、私も河村さんのこと、豊さんって呼んでいいですか?」

「あ、ああ、豊さんでも、ゆたさんでも、淀水ちゃんの好きな呼び方で、ええよ」

 豊は俄かに信じられなかった。まさか自分が、自分の娘より年下の娘に、下の名前で呼ばれることがあるとは。もちろん、嬉しい方の信じられないだ。

 それからしばらく他愛のないやりとりをして、電話を切った。豊は一晩中でも話したかったが、うるさいオヤジだと思われたくなかったので、後ろ髪引かれる思いで切ったのだった。切り際、魚沼はスケジュールの調整をしてまた会いたいので、そのときに連絡すると言ってくれた。果たして無職の魚沼にスケジュールを調整する必要があるのかとも思えたが、それが女心というものだろうと、納得することにした。

 ついさっきまで、娘の彩子と電話でやり合ったことなど、もう豊には忘却の彼方だった。

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