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さて、ここからどう話を切り出したものか、もう豊の頭の中は真っ白になっていた。が、
「じゃあ、お父さん、少し待っててくださいね」
魚沼はそう言い残し、そそくさと席を立った。道路に面した窓際の明るい席に一人とり残され、豊は非常に居辛かったが、しばらくすると魚沼が二人分のコーヒーセットの載ったトレーを持って戻ってきた。どうやらこの店はセルフサービスらしい。最近の店はこのセルフサービスをはじめ、注文や会計の仕方がいまいちよく分からない。尋ねればよさそうなものだが、この歳になるとプライドが邪魔をし、そんなことを聞くのも煩わしい。豊のような高齢者がこのコーヒーショップのような、最近主流のチェーン展開する飲食店を敬遠する大きな理由のひとつだ。
「お待たせいたしましたあ。ごゆっくりどうぞー」
魚沼が店員のような口調でトレーをテーブルに置く。もしやこの女、この店の回し者だったのではあるまいなという考えが豊の脳裏を過る。が、魚沼は屈託のない笑顔で舌を出しておどけた。その仕草が可愛らしくて、やはり杞憂かと思い直した。
「はああ。なんか、こうしてお父さんとお話ができると思うと、なんかテンションあがっちゃって、緊張するなあ」
席についた魚沼は両手で自分の顔をパタパタと扇ぐ。豊は出されたコーヒーにミルク、砂糖を入れつつ、この後、どう会話を繋げればいいのか考えを巡らせる。だが豊が切り出す前に、またも魚沼の方から話しかけてきた。
「それにしても、お父さんじゃ正直呼び辛いですよね。よろしかったらお名前、教えていただけませんか?」
そういえば自分はまだ名乗ってさえいないのを思い出した。個人情報を明かすのに若干、抵抗があったが、向こうが名乗った以上こちらも名乗らないわけにもいかなかった。




