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旬の俳優だか女優だかの主演映画の告知が済み、テレビ画面はコマーシャルに切り替わる。寝返りを打ち、携帯を開く。もっとも、電話など以前いつ使ったのか覚えていない。
二十いくつかで妊娠し、家出同然で嫁いでいった娘の彩子とはほとんど会ってない。妻の葬儀をきっかけに、時折送られてくる孫娘の写真だけが今の生きがいだ。豊は携帯に収められた孫娘の写真を眺めつつ、そんな思いに耽る。するとコマーシャルが終わり、ワイドショーが政治面を伝え始めると豊は起き上がる。
相変わらずどこぞの国の不穏な情勢、アメリカの政治劇、等々が始まると豊はぶつぶつと文句を言い始める。危険な隣国には毅然とした対応をとるべし、米軍は即時撤退し県民の生活を第一とすべし、など、持論を並べる。もっとも、部屋には豊一人しかいないので誰かに聞かせているわけではない。
そうこうする内にワイドショーはローカルな政治面に入る。地方の県議や市議の汚職事件を伝え始めると豊は俄然食いつく。
以前から着服疑惑を報じられていた議員が謝罪している映像が流れる。画面がスタジオに切り替わり、件の議員が着服金を返済し、懲戒処分を受けることで議員を続けるらしい決着を報じるとスタジオ内のコメンテーターが一斉に批判。豊もその甘い処分内容に納得できない点では全くの同感だ。だがコメンテーターたちは事実の更なる追求、再発の防止などと、実に生ぬるい。豊のフラストレーションは溜まる一方だ。
「その程度で済むわけないだろう! あんな奴は即刻、市中引き回しの上、打ち首獄門だ!」
豊が激昂して飯台を叩くと食器が音を立てた。だが政治面は時間の都合を理由にさっさと次のコーナーはスポーツであることを告げ、またコマーシャルになった。豊は釈然としないままチャンネルを回す。が、どこの局もスポーツや芸能ニュースばかり。ひどいのは東京に新しく開店したアイスクリームショップの紹介などをしている。そんなものを東京圏から遠く離れた地方の者に見せてどうしろというのかと、また豊のフラストレーションが溜まる。
腹が立ってきたのでタバコを一本取り出し火をつける。灰皿には吸殻が山盛りだ。妻が生きていたときには毎日二回は捨ててくれていた。自分としては山盛りにしてから捨てるつもりだったので余計なことを、と思ったものだが、今となってはそのありがたみを痛感する。タバコの吸殻をゴミ袋に捨てるたびに、この吸殻を現金に戻せたらどれだけ素晴らしいかと、悔恨の念に駆られるからだ。