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 買い溜めしておいた食料、おもにビール、タバコの類だが、三日も経つとさすがにストックが底を尽きはじめた。なくなってから買いに行くのは色々不都合がある。仕方なく豊はタプリのキーを手に取る。一週間に一度はエンジンに火を入れなければ安物のバッテリーはすぐにあがる。これも車の欠点だ。所有し続ける限り金を食う。

 タプリを走らせ、いつものスーパーに入る。が、三日前に鳴り込んだばかりなのでさすがに気まずい。ほとぼりが冷めるまでしばらく別のスーパーに行こうかとも思ったが、そこは車でさらに十分はかかる距離だ。しかも店舗が大きく、品揃えは豊富だがそのぶん客層も若く、価格設定もさほど低くない。豊には居心地の悪い空間なのだった。

 いやいやと豊は思い直す。そもそも自分が鳴り込んだのは自分に正義があったからであり、非は店にある。自分がこの店に気を使ってやる必要は全くないと思い直し、タバコで気分を落ち着けてからタプリを降りた。

「いらっしゃいませーえ。おはようございまーす」

 店内に入るといつもと変わらぬ従業員の挨拶に多少拍子抜けする。こいつらは三日前の出来事を知らないのか、あるいはあの一件など取るに足らないことだとでもいうのか。それはそれで腹立たしかった。

 三日前のことがあるので店内を周りはするが、努めて目立たぬようにした。買い物も必要最低限のものにとどめ、余計な物は買わないようにする。買い物をすませるとそそくさと店を後にする。自分は悪くないのに、この気まずさはなんだろうと思う。まるで自分が犯罪者にでもなったような後ろめたさを感じた。

 自動ドアを潜り、駐車場に出ればいつもと変わらぬ光景。中年の女と還暦前後の年寄りばかりが出入りしている。やはりその買い物客に、自分を見咎める者などいない。まるで世間と自分の色だけが違うような、そんな感覚を覚えた。

 店舗の脇に据え付けてあるベンチに腰掛け、タバコを一本取り出す。隣のベンチではやはり同年代と思しい年寄りたちが会話に花を咲かせている。その内容がまた娘が離婚しそうだ、息子が仕事を辞めただの、本当にどうでもいいものだった。豊には彼らが不幸自慢をしているようにしか思えない。

 ベンチに腰掛け、タバコも吸い終え、缶コーヒーを飲んで数分、豊が腰を上げかけたとき、一人の女が近付いてくるのが視界の隅に入った。いや、女の存在には気がついていた。年の頃は三十半ば。ぼさついた髪は長く、黒縁の大きな眼鏡をかけている。服装は地味な色だがスカートの丈がやたら長く、周囲から明らかに浮いた服装なので嫌でも目に付く。

 誰かを待っているか、探している風だったので特に気にも留めていなかったが、その女は明らかに自分の方に向かって歩いてくるので豊は思わず自分の背後に目をやった。が、後方にはその女の待ち人らしい人影は見当たらない。そうこうするうちに女はとうとう豊の目の前まできて、足を止めた。豊にはなにがなんだか分からない。この女は自分に用でもあるのだろうか、いや、そんなはずはない。では、この女はなぜ自分の前に立っているのか。豊が考えをめぐらせている間、女の方も逡巡しているようだ。が、女は意を決したように、ひとつ息を吐いてから声をかけてきた。

「あの、失礼とは存じますが、三日ほど前、このお店にクレームに来た人ではありませんか? あ、違ってたらごめんなさい。私、目もあまり良くないし、記憶力にも自信ないので、人違いかもしれないんですけど……」

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