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豊が昼のテレビ番組を見ていると玄関の戸を叩く音が聞こえた。呼び鈴を鳴らすでもなく、ドアをノックする行動を訝しんだものの、いったい何者かとも思い、腰を上げる。

「こんにちはー。国民放送局の者ですけど、河村豊さんのお宅ですよねえ。河村さん、受信料の契約をまだされていないようなので手続きに伺いましたあ。あ、過去の分はさかのぼって徴収するようなことはないので、ご安心下さい」

 内心で舌打ちした。税金だけに止まらず、こんな年寄りからまだ金をむしり取ろうと言うのか。儲け話など向こうから来たためしはないが、金を取ることにかけては足しげく通ってくる。しかもこちらに恩を着せるような態度がまた腹立たしい。そのうえこの訪問者はご多分に漏れず自分をカワムラなどと呼んでいる。見れば三十代の若者だが、いい仕事をしていると思った。こんな仕事で給料を貰えるなら自分の方がずっとやれるのに。どうせコネ採用だろうと思った。

「悪いが俺はKHKは見んことにしとるんじゃ。何年か前、お前んとこがやらせをしとったじゃろ。あの一件から支払いは拒否させてもろうとる」

 嘘である。民放の番組がつまらなければ国民放送もしっかり見る。以前、地デジ化でアナログテレビが使えなくなった際、その一方的なやり口に抗議のつもりでテレビの視聴をやめ、契約も打ち切ったが暇を持て余し、結局一年でテレビを買いなおした。一年も我慢したのだから、テレビの買い替え特需を見込んだ政府には充分抗えたと思ったものだ。おかげで受信料の支払いもしなくてよくなったのだから思わぬ棚ボタではあった。が、屋根に再び設置されたアンテナを目ざとく見つけて契約にきたらしい。

「ええ。しかし視聴はされてなくも、テレビがあるということは、それだけで受信していることになりますので、全世帯の皆様から受信料を払っていただくことになっております」

「それはまあ、ええじゃろ。でもな、お前、自分とこの会社の親分の名前を知っとるか」

「え、ええっと……確か、岡見野局長……だったと思いますが……」

「違うわい! 久地崎多聞じゃろうが! その程度のことも知らずにお前、本当にKHKの社員なんか。もしかして、年寄りを狙う詐欺と違うか」

「いえいえ。私、間違いなく国民放送局の局員ですよ。まさか本社の会長のこととは思わず、てっきり支局長のことかと思ったんです。ハハハ」

 若者は急にヘラヘラと笑い出した。まずったと思い、笑ってごまかす算段らしい。

「その久地崎じゃがのう、あいつは国民放送の親分のくせして、今の政府のヨイショばかりして、都合の悪いことは知らんぷりを決め込んどろうが。マスコミとして政府の言いなりになるのは正しいんか。保身に走っとるのと違うか。そんな会社が国民から等しく金を取ろうと言うのはおかしいのと違うか」

「まあ、それは民放さんが大袈裟に言っているだけですからねえ。それに会長の個人的な考えがそのまま放送内容に反映されることはないと思いますよ」

「思いますよで済むかい! そういうことは絶対にありませんと言い切れんのか。お前それでも社員か。お前じゃ埒があかん。久地崎ここに連れてこい! 話はそれからじゃ」

「それは私の一存ではなんとも……とにかく、国民放送は皆様の受信料で成り立っているわけでして、受信料がなければ局としても番組が作れなくなり、放送局の存続さえも危ぶまれることに……」

「そんなこと俺が知るか。民放は立派にやりよるぞ。どうせお前とこも金が足りんようになったらスポンサー募って自分で金集めて生き残りを図るんじゃろうが。それが自由競争、資本主義というものと違うか。ええからここに久地崎連れてこい言うとるんじゃ。久地崎が来ん以上は銭を出す気はない」

「どうしても受信料は払っていただけないのでしょうか」

 若者は相変わらず下から窺うように愛想笑いをしている。それがまた豊を不快にさせる。

「払わんと言うとるんじゃないんじゃ。久地崎連れてこいと言うとろうが! まずお前とこの会長の思想なり信条なりを聞かんことには話になるまいが。お前は素性もよう分からん者と契約ができるんか。金が出せるんか。俺の言うとること、なんか間違うとるか。おかしなことを言いよるか!」

「……分かりました。それでは、また日を改めてお伺いします」

 若者は急に愛想笑いをやめ、踵を返すとしきりに首をかしげながら立ち去った。

 その若者のうしろ姿を見ていると、やはり詐欺グループの下っ端のように思えてきた。

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