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「ね? 他人事じゃないでしょ? どうせおとんもまだ母ちゃんの軽に乗ってんでしょ。あんな事故になる前に、さっさと免許返納して、車も売り飛ばしちゃってよ。田舎だからバスも電車も空いてるっしょ」

「ああ、そのうちな」

「そのうちじゃないじゃろ! そのうちそのうちって、事故になってからじゃ遅いんじゃけん! そうなったらウチらに累が及ぶんよ! それでなくてもおとんは若い頃から痴呆みたいなもんじゃろうがい」

「なんぞ! 親を病人みたいに言うて! 俺は痴呆なんか患わんし、患ろうてもお前らの世話にはならんわい!」

「おらばんといてや! そうやってすぐに怒り散らすのが痴呆というんよ! 鞠もこれから、いうときになって、おとんの面倒や尻拭いなんて、ウチは嫌じゃけんね! うん? なに? 鞠。お母ちゃん、今大事な話しよるけん、邪魔せんといて」

「鞠もー。じいちゃんとお電話するー」

 どうやら孫娘が自分も電話をしたいとせがんでいるらしい。豊の相好が崩れる。

「ああ、もう分かった。分かったけん、鞠に代われや」

「もう、代わってあげるけん。その代わり、ちゃんと免許証は返納するんよ」

 電話の向こうで娘が携帯を孫に渡しているようなやりとりが聞こえる。

「もしもしー。じいちゃーん」

「おお、おお、鞠や。元気しとったか? 学校は行きよるか?」

「うん。鞠ね、今日学校で足し算習うたんよ。三桁の足し算で。テストで九十二点とったんよ」

「ほおおー。そうかあ。鞠は頭がええのお。じゃあ国語はどうぞ」

「国語は嫌。なんか本や漢字を書き写すばっかりで面白くない」

「そうかそうか。じいちゃんは漢字が得意なんぞ。夏休みになったら遊びにこいや。漢字教えちゃる」

「うん。行くー」

 しばらく孫と他愛のない会話を楽しむと娘が電話を取り上げる。

「お盆にはまたお墓参りに行くけん。おとんは今日からもう車には乗られんよ。分かった?」

 そう言うと娘は一方的に電話を切る。そんなことを言われて大人しく運転をやめればなにか自分が負けた気がするのでやめるつもりは毛頭ない。もっとも、言われなかったとしても運転をやめるなど考えられないことなのだが。

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