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「あ、おとん? 元気してる? まあ、元気じゃなかったら連絡するよね」
もしもしとこちらのご機嫌を伺う風もなく、娘は一方的にこちらの安否を確認する。もっとも、最近は電話でもしもしと言う挨拶は廃れてしまった感があるので娘に限った話ではないのだが。
「それよりおとん、見た? 夕方のニュース。今もやってるかもしれんから、とりあえずテレビつけてみ」
ああ、と、気のない返事をするが時代劇が終わるまでチャンネルを変えるつもりはない。画面はすでに大団円のシーンとなり、肝心の土下座シーンはほとんど印象に残らなかった。よりにもよってなぜ、このタイミングで電話なぞしてくるのか。気の利かない娘だと心の中で舌打ちする。子供の頃はお父さんと呼んでいた気がするが、思春期の頃からおとんと呼ぶようになり、距離をおくようになっていった気がする。
「ね、ね。やってるでしょ。えらいことになってるよね」
「んー。ああ、うん。まあ、そうだな」
適当に返事をしつつチャンネルを回す。すると線路脇で軽自動車が逆さまにひっくり返っている映像が映し出された。
画面がスタジオに切り替わる。解説によると認知症のドライバーが家族が目を離した隙に車で外出。踏み切りで立ち往生し、列車と衝突。ドライバーは即死。列車は脱線し、乗客にも死者が出たらしいと報じた。ワイドショーの司会者がフリップを指しながら解説する。
「とにかく、謎の多い事故なんですよね。ドライバーのおじいちゃんが認知症を患っていたとのことなんですけど、じゃあ、なんでそんなおじいちゃんに車の運転ができたのか。家族は鍵を管理していなかったのか」
コメンテーターが答える。
「若い頃に毎日のように運転していれば認知症になっても運転はできるものなんです。問題は交通法規や標識、信号などが認識できないことです。もしかするとこのドライバーは、踏切が認識できなかったのかもしれません」
「では、このドライバーはそんな状態で、一体どこに行こうとしていたという疑問が出てくるわけですが」
「認知症の場合、若い頃の記憶の一部が発露することがありますので、仕事に行こうとした、などが考えられます」
「話を踏み切りに戻します。目撃者の証言によりますと、この車は特に脱輪したような状態でもなく、ただ、踏み切りで停車していた、という証言もありますが」
「まあ、それは警察発表がない限りはなんとも言えませんねえ。認知症の患者さんはどんな行動を起すか、予測のできないことが多いですからねえ」
「以前、認知症のおじいちゃんが電車に撥ねられて、遺族が鉄道会社から賠償を求められたものの、当事者が認知症だったために遺族に賠償責任はないとの判決が出たことがありましたよね」
「ええ、まあ、ありましたねえ」
「今回も同じ、もしくは似たケースと言えるのでしょうか」
「まあ、今回は乗客に死者も出ているわけですし、一概に同じとは言い切れませんねえ。ただ、裁判所は過去の判例に準じる傾向がありますから」
「仮にですよ、遺族が賠償を免れるために認知症だと言っていたら、あるいは、家族は認知症だと思っていても、医学的にドライバーが認知症だったと証明できるものがなかったとしたら……」
「難しいですねえ。ドライバーが認知症であるという医師の診断がなかった場合、過失の可能性も出てきます。司法がそう判断すると、遺族にも賠償責任が生じるかもしれません」
「えー、高齢者ドライバーの事故は増加の一途を辿っております。一刻も早い政府、行政の対応が待たれます」
司会者が締め括るとコマーシャルが流れ始める。豊はそういうことかと合点がいった。運転の下手くそなどこぞの年寄りのために、自分のような優良ドライバーまで危険視されるのが不快だった。




