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その後、豊が自宅に帰り着いたのは午後の二時を回った頃だった。時計を見て、また無為に一日の大半を過ごしてしまったと後悔する。自分に残された時間はあまりにも少ないのに、こうして一日の大半をなにもせず、社会に関わることもなく、ただ無駄に消費してゆくのかと思うと焦りばかりが募る。
テレビのスイッチを入れ、昼のワイドショーにチャンネルを合わせる。外国で悲惨な事件があったらしい。なんでもショッピングモールで中年男がショットガンを乱射し、多くの死傷者が出たと報じている。画面が切り替わると司会、コメンテーターたちが一様に神妙な顔で犯人の動機なり生活環境などを推理している。痴情のもつれ、テロ組織との繋がり、麻薬、よく似たゲーム等々、ありきたりな憶測や検証映像が流れる。
「店の対応が悪かったんじゃろが」
早速買ってきたサバ缶をつまみつつ歯切れの悪いコメンテーターに代わって解説する。豊の脳裏にふと過るものがあった。
自分も銃器で武装し、あのスーパーに乗り込み、ショットガンであの腹立たしい四十代の店員や、涼しい顔の山野に打ち込んでやったら少しは連中も反省するのではないか。そこまでしなくとも銃口を向けるだけでいい。連中が跪いて命懸けの謝罪をし、泣きながら命乞いでもすればこちらとしては大いに満足できる。店の誤りを正したのだから犯罪ではあっても多くの賛同を得られるはずだ。少し小気味よくなったが銃器を手に入れるアテなどもちろんない。所詮実行不可能な妄想であると思い直すとまた腹が立ってきた。
サバ缶とツナマヨおにぎりを食べ終わる頃にはワイドショーの内容は芸能人の再婚の話題に移っていた。豊はチャンネルを回してみるがこの時間帯、他に面白そうな番組はやっていない。腹も膨れたのでコタツに潜り込む。それからどれほどの時間が経過したのか、聴きなれた音楽が遠くから聞こえ、意識が引き戻された。いつの間にか眠っていたらしい。聞こえてきた音楽は豊がほぼ毎回視聴している時代劇のオープニングテーマだった。
長寿で知られるこの時代劇は平日の夕方五時から再放送されている。二時間半は眠っていたことになるが、特に見たい番組もなかったので丁度よかった。それにこの時代劇は豊も気に入っている。時代劇のファンというわけではないが、豪商の隠居に身をやつした権力者の主人公が世直しの旅に出て、各地の悪代官や悪徳商人の悪事を暴き、土下座をさせるというラストが実に小気味いい。自分もこの主人公のように日本全国を行脚し、私服を肥やすしか能のない地方議員たちを土下座させて回りたいものだ。政府もそのような特権を市井の人間に与えるべきだ。肩書きのある者ではすぐに政財界と癒着し機能しなくなる。その点、自分のように正義感があり、しがらみのない人間は世直しさせるのにはうってつけだ。自分に袖の下を贈ろうとする不届きな連中は片っ端から辞職させ財産も没収する。それを国庫に収めれば国の財政も潤う。なぜ国家は自分のような人材をそんな役職に任命しないのかと思う。
そんなことを考えつつ時代劇を視聴。今回は藩の汚職を暴こうとして謀殺された役人の妻子の仇討ちに主人公一行が協力する話らしい。些か手垢がついた感があるが、ラストは分かっているので安心して見ていられる。
話も後半に差し掛かり、主人公の大立ち回りが始まる。悪徳旗本の家臣もあらかた倒され、いよいよお待ちかねのクライマックス。悪玉の親分が土下座をして視聴者にカタルシスを与える最大の山場だ。が、こんなときに限って、いつもは鳴らない携帯が不快な着信音を鳴らした。どうせまた契約会社からの広告だろうと思い、とりあえず閉じた蓋のディスプレイを確認すると娘、彩子からだった。ろくな話ではあるまいと思ったが、仕方なく携帯を開く。




