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「ちょっと待てや! これで話は終わりか! 金を戻したらそれでええんか! 俺はの、なにも百円ほどの金が惜しゅうてこがいなことを言いよるんと違うんぞ! ほかになんか言うべきことがあろうが! 俺はお前んとこが売りつけた賞味期限切れの毒を飲んだんぞ! これで俺が癌にでもなったらお前ら、俺に死ねというんか! そがいなことでこの店はやっていけるんか! 俺はお前らのためを思うて言いよるんぞ! それでその態度はなんぞ!」
豊は口角泡を飛ばしてまくし立てた。自分にとっての重大事が、当事者であるはずの店に軽く扱われていることが我慢ならない。金が惜しくて戻ってきたと思われるのが容認できない。自分は筋道を通すため、真っ当な意見をしに来たのに、その志をこの連中は全く理解していない。賞味期限切れの商品をつかまされたことより、豊はもうそのことが許せなかった。山野がおもむろに振り返る。やはりにこやかな顔をしている。
「ええ。お客様のお気持ちは重々、理解しているつもりです。ですが、店としてはミスを百パーセントはなくせないものなのです。もちろん、そこに向けて日々努力しております。そこはお客様にご理解していただく以外はないとしか申し上げようがございません。また、筋違いとは思いますが、賞味期限というものはメーカーが設定した味の保証をする期間という程度の意味合いでして、一日過ぎたから即、お客様の健康を害するというものではないのです」
「屁理屈を言うなや! 俺はそんなことにいちいち腹を立てとるんじゃないんじゃ! 俺が言いたいのは、誠意を見せろ、いうことなんじゃ!」
「はい。ですから、お客様のご意見を真摯に受け止め、今後のサービス向上と、ミスのない商品管理に誠意を尽くしてまい進していく所存です。そこはお客様に温かく見守っていただき、判断していただくほかはなく、店としてはご購入いただいた商品の代金をお返しする以上のことはできないのです。お客様が納得できないのは分かりますが、何卒ご容赦下さい。では、私も業務がありますので、これで失礼致します」
山野はそう言ってそそくさと店内に戻り、勝手口のドアを閉めた。山野の説明に全く反論できず、しばらくその場に立ちつくす。言いたいことは山ほどあった。自分が正しいとも確信していた。なのになぜ、自分が思ったとおりにならなかったのか。それが納得できない。悔しさだけがこみ上げてくる。
ふと気付くと左手にあの紙パックを握り締めたままだった。よく見る時代劇に出てくる印籠よろしく、これを突きつけて店員全員が土下座するイメージができていた豊は虚無感に襲われた。動かぬ決定的証拠だと思っていた紙パックに全く活躍の場がなかったことに、妙な寂しさを感じたのだった。
豊はそのまま駐車場に戻り、力なくタプリに乗り込む。入り口の正面に停めたので買い物客の好奇の目に晒されることとなった。代金は戻ってきたが、それだけだ。ガソリン代を考えれば全くの赤字だ。こんなことなら戻ってこなければよかったと後悔した。




