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大阪弁と転生と竜  作者: 椋
一章
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風竜の悪戯を受けた



 サファから正式にマリン、ラピスを紹介されてから数日が経った。


 相変わらず俺は、ゾスとの強化訓練に精を出している。最近では人型になることにも慣れ、容易く手足を駆使することが出来るようになった。

 竜たちは皆、俺が余りに早く人型を体得し、慣れてみせたことに驚いていたが、何のことはない。元々俺はこの姿だったのだから、慣れていて当たり前なのだ。

 最初、人型で居るのは魔力の消耗が激しくすぐに体力を奪われていたが、慣れると体積が少ない分、余計なエネルギーを放出せずに済む。最も、当然パワーは落ちるのだが、日常生活に支障はなく、寧ろ快適なフォルムだと言っていいだろう。

 何より、俺の人型の姿は一種の観察対象になっているようで、元の世界ではとんと感じなかった、美しい者への憧憬の視線が物凄い。俺が通るたびに一斉にこちらを見るので、最初の頃はわざとうろちょろしていたものだ。

「見て、アダマス様よ。なんて美しいお姿なの……」

とか言われてみ?調子に乗るしかないやん?



 ゾスから休憩を言い渡され、岩に腰かけて物思いにふける。日焼け?何それ?とでも言いたげな、血が通っているのか心配になるほど真っ白で、細っこい腕を陽にかざして眺めた。

 そして、色とりどりの菓子を作り出していた手を思い出す。火傷やあかぎれが所々にあって、いつも甘い香りをさせていた。確かな自負を持った、職人の手だ。

 毎日見ていたはずのそれが、日に日に薄れていく。その事実に、心の奥がきしりと微かな音を立てた。きっとこれが、未練なのだろう。受け入れたふりをして、竜への覚悟を刻んだふりをして、いつまでもうじうじしている弱い自分が居た。




 つらつらと考えていると、ネガティブ思考にどんどん嵌っていくのが分かる。これはいかん、と立って背伸びをしたりしていると、視界の端に、数日前に見た瑠璃色が横切ったような気がした。

 そしてそれは案の定で、こちらに近づいてくるラピスの姿が、次第に大きくなってくる。

 しかし、彼が近づいてくるにつれ、違和感が俺を襲った。その少年は、ラピスに見える。が、魔力がラピスの物とは異なっているのだ。

 とてもよく似た、別人の気配。

(は?いやでも、顔はどう考えてもラピスやんな………、魔力の波長もよう似てるし、兄弟か?)


 そして、ラピスに瓜二つの少年が、俺に手を振る。

「アダマス様ー!久しぶりだね!」

「いや、だれやねんおまえ………」

「何言ってるの、ボクだよ、ラピス!もう忘れちゃったの?」

「ラピスにようにてるけど、どうかんがえてもべつじんやろ」

「………あっさりバレるとかつまらないんだけど」

 ガラリと変わった雰囲気。少し怜悧な眼差しでこちらを見る少年は、ラピスによく似た顔に不満げな表情を浮かべた。

「ボクはラズリ。ラピスの双子の弟で、風竜王の片割れだよ」

 驚いた。どうやら彼らは二人で王をやっているらしい。

「あーあ、ラピスと二人で、ボクらを見破れないような王なら要らないね、って話してたのに。あっさり見破ってくれちゃってさ」

 で、俺は試されていたらしい。

 頰を膨らませてはいても、何処となく嬉しそうなのを隠し切れていないのが分かる。二人はイタズラ好きなのだろう、だから初対面の者には、今までもこうやって仕掛けてきたに違いない。見破られないと、大成功だったねとほくそ笑んで。けれど、同時に、いつも自分に気づいて欲しいと渇望している。

(………誰よりも自分自身の事を見て欲しいっていう思いが強いんやろなぁ、この子らは)

 ふぅ、と息を吐き出すと不安そうな表情でこちらを伺ってきた。

 自分よりも年下の見た目をした竜の一挙一動に反応するのが可笑しくて、少し大袈裟に悩ましげな表情を浮かべてみる。

「な、何?怒ったわけ?ちょっとしたイタズラじゃんか」

「………ラピスもよんできぃ、おせっきょうや」

 勿論、露ほども怒ってなどいないが、わざと眉間に皺を寄せて言ってみると、慌てたようにラピスを呼びに走って行った。



「___さてと、ゾス。ちょっとまたせるけどすまんな」

「………やはり気づいていたか。

 しかし、我が君。あの二人は悪気がある訳では………」

「わかってる。なにもしかろうとしてるわけちゃう。あんしんしてくれてええで」

「………御意に」


 ラズリが来たぐらいから、隠れて様子を伺っていたその男は、その言葉を最後に、また気配を隠してするりと木々に溶け込んだ。二人を心配しているのが手に取るように分かった。

 竜たちは、お互いに良い関係を築いているようだ。

 こうして関わりを持つ前は、ドラゴンと言うぐらいだ、もっと荒々しい性格をしているのだと思っていた。だが今は、言い方はおかしいが人間味のある種族だと思う。

 俺がこれから、守っていくべき家族。護りたい相手。この世界から彼らを託された以上、全力で愛してやるまでだ。


 古谷 千紘時代から、自覚はあった。

____何を隠そう。俺は、身内にはとことん甘い男である。


 元の世界では、家族はオカンしか居なかったから、マザコンだと言われようが母の事が一番大切だった。女手一つで育ててくれた彼女に孝行したい一心だったのだと思う。

 けれど、俺は一度死に、そしてここで生まれ変わった。誕生したその瞬間から沢山の家族に囲まれていたことは、アダマスにとって僥倖だったと言える。存在意義もハッキリしない救世主に、傅いてくれた竜たち。

 ならば、俺が彼らに返せるものは何だ?その答えはまだ見つかっていない。

 だが、俺なりのやり方でこいつらを愛し、守ることが現時点での最適解だと結論付けた。

 つまり何が言いたいかって?

_____俺を王に据えたこと、後悔すんなよ竜ども。ってことや。



「ふたりをひとりにちかづけんのはやめろ。かおはたしかにそっくりやな、でもぜんぜんちゃうわ。みわけられるかゲームなんかやって、じぶんきずつけてるだけやんけ。おまえはラピスで、おまえはラズリや。まちがえられたらぼくのところにこい。なんどでもいうたるわ」

「「はい、ごめんなさい………」」

 怒涛の勢いで喋る幼児を前に、正座する双子。しゅん、と落ち込む少年たちに向かって、一人一人の目を見ながら言い聞かせると、よく似た金色の瞳をキラキラさせながら何度も頷いていた。


 そしてその事件以降、何故かベタベタに懐かれることになった俺。

「アダマス様ー、遊ぼう!」

「ラピスばっかズルい!今日はボクとだよね!」

 双子は、自分たちを見分けて貰えると喜ぶというのは、本当だった。

 パティシエ時代、主な顧客であった若い女性のことを学ぶために読んだ、少女漫画で得た知識である。背景になる葛藤はそれぞれ違うだろうし、一卵性の双子というだけで枠に当てはめるのは抵抗があったが、本人たちが嬉しそうなので良しとする。

(何回も言うけど、何やねんコレ、乙女ゲーやん……)

 心の中で呟くのは忘れない俺であった。

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