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大阪弁と転生と竜  作者: 椋
一章
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蒼玉の水風と会った



「先日は、本当に失礼致しましたわ……」

 しゅん、と落ち込むのは目の前の竜。淡い水色をした、細身でしなやかな肢体は、この間見た彼女の髪の色を思い出させる。


 竜と聞けばどうしても厳ついイメージが先行するだろうが、マリンのように優美な姿を持つ個体も居る。そういえば雌竜は大概が細身で、対照的に雄竜は殆どがっしりした体格をしている。雄でも、サファのように中性的な姿を持つ者も居る。彼らは多様で、けれど皆一様に美しく誇り高い。


 ここに来てからというもの、元の世界では伝説上の生き物だったドラゴンを、幾度も間近で見てきた。

 滑らかな鹿の角を連想させるような、立派な一対の角。鋭く細いひげ。チロリと覗く、尖った白い牙。赤い舌。表皮を覆うのは、ゴツゴツとした鱗。

 そして俺は、最初の頃感じていた、本能から来る恐怖心や腹の底にずんと鎮座していた不安感が今は薄れていることに気づいた。

 これはきっと、古谷 千紘の欠片がポロポロと抜け落ち、竜に近づいている証なのだろう。


______もう俺も、竜なのだ。



 透き通る結晶竜たちは、何度見てもガラス細工のようで割れる心配をしてしまったものだが、今目の前に座っている水竜は透けていなくて、なんだか意味もなく安心してしまう。

「かまへんって。サファにおこられでもしたんか?」

 笑い含みのその言葉に、水色の竜がずぅん、と落ち込んだのが分かった。

「サファ様ったら、酷いんですの。抜け駆けしてアダマス様に会いに行ったのがバレ、更には抱きついたのまでバレてしまい、散々お仕置きを受けましたわ」


(………お仕置きって単語が卑猥に聞こえんねんけど、俺だけか?)

 そんな不純なことを考えている俺には気づかず、マリンは訥々とサファの自分への扱いの酷さに対して文句を言っている。


 だが、お気づきだろうか。

 君の背後に、ニコニコと爽やかな笑顔を浮かべて立つ美青年が居ることに。


 美青年、もといサファは竜の姿をしたマリンの背に軽やかに着地し、笑顔で説教を始めた。数分後、彼女の顔が随分とげっそりしていたが、見ないふりをしておいた。笑顔で人を追い詰める奴って、凄く怖い。こいつは怒らせないようにしようと、誓った瞬間だった。



 さて、そんな彼は、今日も今日とて極上のイケメンである。深い青で染められた着流しを身につけ、優美に佇むその姿は、さながら和風貴公子だ。

 そのサファが、おもむろにマリンの横に魔法陣を創り出した。ルビィの時に見たものと、同じ文様。

「フォルグネシス・シンザリーム」

 静かな声に呼応するように、美しい青の光線が立ち上る。厳風が吹き荒れ、青の光が辺りを包んだ。眩しさに、思わず目を閉じてしまう。


 目を開けると、そこには新たに一体の竜が座していた。深い瑠璃色の躯体に、まだら模様に散りばめられた、金色の斑点。

 それはまるで、小さな宇宙。夜空をぎゅっと凝縮したような、神秘的な容貌だった。

「はじめまして!ボクはラピス。キミが噂のアダマス様だね?」

「全く、我が君に馴れ馴れしくしすぎですよ」

 朗らかに話しかけてきたその竜に、呆れたようにため息を吐くサファ。

「かたくるしいよりええわ。

 ラピスやな、よろしくたのむ」

 そう言って手を差し出すと、心得たように人型に変わるラピス。

「ああっ、握手なんてズルいですわ!」

「マリン、貴女は暫く我が君に近づかないように、と言ったのが聞こえませんでしたか?」

 もうそこの二人は勝手にやっといてくれ。


 現在の俺よりは勿論年上に見えるが、ラピスは少年の姿をしていた。宵闇を溶かした瑠璃色の髪は、マッシュルームのような形をしている。

 確か、元の世界にもこういう髪型をしている芸能人を見た気がする。何と言ったか………そうだ、マッシュルームボブだ、思い出した。ん?マッシュボブだったか?

 どっちでもいいか。思い出せたことに少し得意気な気分になりつつ、ラピスの観察を続ける。

 手触りの良さそうな白いシャツにベスト、ダークグレーのズボンという、極シンプルな服装に身を包んだその少年は、愛くるしい顔立ちをニコニコと緩め、こちらを見ている。笑うと笑くぼができるようだ。

「アダマス様、ラピスには「何でもないよ!」………ハァ、遮らないで下さい」

 何かを言いかけたサファの口を塞いで即座に遮ったラピスに、またため息を零しているサファ。

 何のことやらよく分からなかったが、二人とも、というかマリンも含めて三人とも、以後そのことについては触れなかったため、釈然としないままではあるが、その話は終わったのであった。





 サファが言いかけた言の葉の先を、俺は数日後に知ることとなる。



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