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大阪弁と転生と竜  作者: 椋
一章
2/35

転生した

 


 闇の中を、漂っていた。



 先ほどまで襲っていた燃えるような痛みは、忽然と消え去っている。


 不思議なもので、痛みが消えると冷静さが戻ってくる。手足の感覚は麻痺してしまったようだが、千紘の頭は、すっきりと冴えていた。


(とりあえず、俺は死んだと仮定する。

で、ここどこやねん………。意識ってこんなはっきりしてるモンか?

 店のヤツらが心配っちゃ心配やけど、俺がおらんぐらいでどうにかなるような育て方してへんしな。

 オカンも、一人にしてまうけどあの人強いからな。

 最近会社の敏腕上司と付き合ってるらしいし………。

 俺はもう守られへんから、ちゃんと守ってもらえよ。

 一回ぐらい給料でアクセサリーとか買うたったら良かったわ………。今となっては叶わん願いやけど。


 よし。未練らしい未練は無いから、幽霊になって現世にしがみつくような真似はせんで良さそうやな。)


 現世に想いを残して、怨霊やらになったら目も当てられない。そんな事を考える余裕があるほどには、千紘は冷静な男であった。

 彼に、死に対しての恐怖はなかった。というか、一瞬すぎて怖いと感じている暇がなかったのだ。

 せめて、あの女性やドライバーが無事であることを祈るばかりである。


 つらつらと考えていた千紘は、突如襲ってきた強烈な睡魔に抗うことなく、その意識を暗闇に委ねた。



 最期に彼の脳裏に浮かんだのは、色とりどりの洋菓子たち。毎日彼の手から作り出されていたそれらは、ショーケースの中に並べると、まるで宝石箱を見ているようだった。あの美しい眺めをもう見ることが出来ないのは、少し残念だが仕方ない。


 そうして、彼は今度こそ意識を手放し、闇に溶け込んでいったのだ____























__________パキッ



(………なんの音や?しかも何これベタベタすんねんけど)


 微かな不快感と、窮屈な閉塞感。

 身じろぎした拍子に、またあのパキッという音が連続して響いた。ごつごつした感触がする。

 とにかく周囲の状況把握に努めようと、目蓋だと思しき器官を持ち上げようとする。上がらない。

 何度か繰り返して、ようやく開いた目は、まだ慣れていないのかボヤけてピントが合わない。


 微かに外の光が確認出来る程度だ。

 もどかしさに体を動かせば、ひときわ大きくバキッという音がして、まばゆい光が全身を包んだ。

 しばらくチカチカとしていたが、ようやくクリアになる視界。






 目の前に、何故か美女がいた。


 暗赤色の髪は、不思議な色合いをしている。透けるような真っ白の肌に、暗緑色の瞳。端正に整った顔立ちは人形のようで、生きているか心配になるレベルだ。

 というか、温度が感じられない。え、生きてる?


 その美女が、次の瞬間その宝石のような瞳に、零れ落ちんばかりの涙を溢れさせた。

 瞳を縁取る長い睫毛が、ふるふると震えている。

(嘘やろ。俺が泣かせたみたいやん………)

 美女の泣き顔は、途轍もなく罪悪感がある。

 何はともあれ、生きているようで安心した。


 目の保養とばかりにじっと観察していると、美女がそっと近づいてきて、震える両手で俺を持ち上げようとしてくる。

(いや、俺の体はそんな細腕じゃ無理やろ。)


 そう思った次の瞬間、俺は自分の体に起きている異変を、ようやく認識した。

 美女に気を取られすぎて状況把握を怠ってしまっていたのだ。

 恐る恐る体の周囲を確認してみると、自分を中心に散らばる、卵の殻のようなもの。

 自分の体をところどころ包む、粘膜。

 極めつけは、ごつごつした体。カギ爪。

(………って、は?カギ爪?)

 見慣れた人間のものではなく、むしろ爬虫類とかそういう類の肢体。

 ここまで来ると、夢を見ているんだろうなとしか思えなくなってくる。現実逃避だ。


 現実を直視出来ずに遠い目をしている俺を他所に、先ほどの美女がとうとう俺を抱え上げた。軽々と持ち上げ、恍惚とした表情でこちらを見てくる。


 気まずいことこの上ない。


「嗚呼、お待ちしておりました我が君………!

 なんと美しく、愛らしいお姿なんでしょう。ご生誕誠におめでとうございます」


 突然興奮し出した美女に、ドン引きした。

 美しいけど変態や。しかも我が君ってなんやねん。

 こちらの冷めた目線に気づかず、頬ずりしてくる始末。

(いやそこ鱗やから。なに考えてるねん、痛ないんやろか………)

 色々と危ない美女は一旦意識の外に置いて、俺は自分の体を見下ろす。


 キラキラと光を浴びて輝く、透明の肉体。

もはや肉なのかどうかも定かではない。全身が硝子細工のようなのだ。

 だが、俺は気づいてしまった。さっきからあちこちぶつけているにも関わらず傷ひとつ付かない。そして、水晶よりも遥かに眩い輝きを放つコレは。

___ダイヤモンドではないか、と。


 自分の体が宝石で出来ているという衝撃の事実。

(何カラットやろ………)

 冗談のような光景に、そんなどうでもいいことを考えてしまう。


 辺りを見回すと、遥か先までごつごつとした岩場と広大な大地が続いている。


 どうも鉱山のようなのだ。かなり標高の高い場所にいるらしく、逆側の眼前には大森林が見渡せた。見晴らしのよい、後ろに洞窟が控えた広場のような場所。

 そこで、俺は孵化したようだ。


 後に水場で自分の姿を映して気づいたのだが、何故か、想像上の生き物だったはずのドラゴンの姿を持って、俺は新たに生を受けたらしい。


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